2009年11月30日月曜日

ミシシッピ川とメンフィス


ミシシッピ川は米国北部のミネソタ州から米国を縦断して南部ルイジアナ州のメキシコ湾岸に流れる米国最長の川である。世界でもこれだけの長さを持つ川はアマゾン、ナイル、長江あたりであろう。あらためて米国全域を消費財市場として見た場合、実はこのミシシッピ川が東と西の境界線であると教えてくれたのは前号で紹介したユダヤ系のM社長である。米国地図で見るとこの境界線は随分東側に偏っている様に見えて、おそらく国土面積で見れば東側がおよそ1/3、西側がおよそ2/3の割合となるだろう。という事はそれだけ東側に人口が偏っているとも言えるし、また西側は西海岸を別としてその中間部である山岳地帯は人口が過疎であると言える。

米国の総人口は2007年に軽く3億人を越えて、2008年では 304百万人と推定されている。これを州別の割合比率で見れば、カリフォルニア州 12.1%、テキサス州 8.0%、ニューヨーク州 6.4%、フロリダ州 6.0%と上位 4州だけで米国の総人口の 1/3を占めてしまう。これに続く 5位から8位まではイリノイ、ペンシルバニア、オハイオ、ミシガンのかっての工業の中心地であった中西部の4州で、これらを合計しても今や上位4州合計の半分以下の15%程度である。更に9位のジョージア州と10位のノースカロライナ州までのトップ10位までの合計でみると総人口の半分以上の 54%となる。

一方、1990年から 2000年までの人口動態調査で見れば、米国全体の中の人口の動きとしては、「東部と中西部」から「南部と西部」への大移動が起こっているのが明らかである。これは脱工業化社会への移行と internetの普及で企業と人々の立地や居住地の選択が自由となって、天候が温暖で安全と自然に恵まれた地域への移動が行われたという事だ。その面ではカリフォルニア州のみならず、テキサス、フロリダ、ジョージアの各州は人口の大きさのみならず、増加率も10年間で2割を越して目を見張るものがある。

こうした人口の大移動を背景にして、ミシシッピ川という東西境界線から見て、テキサスとフロリダという巨大な二州へのアクセスも考慮に入れれば、自ずとその中心は従来の中西部に近い北側よりもぐっと下がって南部へと降りてしまう事となる。さてそういう観点から、ミシシッピ川の流域の色々な都市の中で、流通拠点として近年注目されているのはテネシー州のメンフィスである。そう、あのエルビス・プレスリーで有名であり、ブッシュ・小泉会談が行われたメンフィスである。その流通拠点として象徴的なものとしては、全米、全世界への配送をカバーする Fedexがその本社と巨大な配送センターをこのメンフィスに置いている事だ。

実は、前号で述べた通り、M社長の会社を全米の総代理店にする事で交渉していた時の最大の課題は、それまでM社長の会社が比較的西海岸からの配送が中心であった事から、果たして同様に南部、中西部や東部へスムースに事業展開が出来るかどうかという点であった。勿論、南部、中西部、東部でのセールスレップを新たに増員しなくてはならないし、これら地域の小売店にも総代理店になった事を通知し、スムースに取引関係を移行、拡大しなくてはならない。そこで M社長がミシシッピ川東側市場への流通配送拠点として迷わず選んだのもこのメンフィスである。メンフィス市側では Fedexの本社と配送センター誘致に成功した事をきっかけに全米の流通拠点として積極的に企業誘致活動を行って来たのであって、新規の進出には様々なインセンティブが供与されている。

移民国家米国の総人口増加の推移としては 1990年2.5億人、2000年2.8億人で、おそらく2010年には 3.1億人に達すると見込まれ、10年間に 11-12%、20年間で 23-24%の驚異的な伸びを見せている。その増加人口の殆どがこういった西海岸と南部に集中しているところからますますこのメンフィスの流通拠点としての重要性は高まってきている。米国という国は、人口増加も激しいが、内部での人口移動もマグマの活動の様に激しい国である。

そうなると経済成長率というものが、生産性と人口増の方程式から得られるものであるから、米国がいかに衰退過程に陥ったとは言え、少子高齢化の日本や西欧と比べれば、まだまだ国家としては潜在的な競争力はあると言える。その米国と興隆する中国の狭間で、閉塞感が漂う日本という国の国家的な見地からのビジョンというのは新政権からは全く見えて来ない。

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