2010年9月13日月曜日

駐在員くずれ

企業派遣の駐在員として米国に来て、その後転職や自ら起業したり、あるいは定年後も日本に帰らず米国に留まっている人達の事だ。彼らが自己紹介の時などで自ら名づけたやや自嘲的な表現でもある。


このグループは自らの意思で米国に来た「新一世」と、社命により米国に来た「駐在員」の中間的な存在であるが、米国には永住権という便法がある為に欧州各国での在住日本人の間ではみられない米国特有の現象である。つまり永住権の制度がなければ、転職したり、中途退職したり、定年を迎えたりすれば、企業派遣でのEやBのビザが無効となって、現地の人との婚姻関係でもない限りは、一旦は日本に帰国せざるを得ないからである。

この「駐在員くずれ」グループの人々は最近ますます増えて来ている様だ。一昔前はこういう人々を「文化難民」と言って、どちらかと言えば日本の「村社会的」企業文化に馴染めない人々が主流だったのであるが、最近ではもっと短絡的になって例えばゴルフが年中手軽に出来るからとか、物価が安く、天候の良い所に住みたいからという「趣味と生活」重視派が増えて来ている様だ。また以前、駐在員時代に米国で生まれた子供が米国籍を持って米国に住んでいるという機会を利用して、日本で定年を迎えた後にわざわざ日本の家を売り払って、あらためて永住権を取って(子供が米国籍を持っていると簡単に永住権が取れる)米国にシルバー移住する老夫婦も何組か出てきている。

ところでこの「シルバー移住」というのが日本では一時話題になったが、この言葉は最近聞かれなくなってきている。このシルバー移住の先としてまず人気になったのはオーストラリアとマレーシアである。この二国は日本からの距離も近く、気候温暖で、治安等の生活条件も比較的良い。これに加えて米国と違うのは一定金額の投資や預金を現地で行えば、シルバー移住者としての永住権をもらえる事にある。米国の場合はハワイや西海岸がシルバー移住の対象となっていても、あらかじめ永住権を持っている人間ではない限り、現地に在住できる期間は極めて短期間に限定されてしまうから意味がない。

ここで問題になってきているのは、殆どのシルバー移住者が海外で生活する事がはじめてというケースが多い事にある。最初は旅行気分で現地での快適な生活を始めても、実はそのうちにだんだんと「心の乾き」を感じてしまう様になるらしい。この点マレーシアの場合はマラヤ、中華、インド、イスラムの文化が混合して独特の雰囲気があって移住者の好奇心をそそり続けるものがあるが、オーストラリアの場合は恵まれた自然はあっても独自文化の濃度の薄い国であるからそのうちに退屈してしまうという事になりかねず、どうもシルバー移住は計算高い関係国と業者に乗せられた感がある様だ。

さて定年後も住みなれた米国に住み続ける「駐在員くずれ」の人達にとっては、この移民国家では色々な文化を引きずってきている人達との交流にこそ値打ちがあるので、何も敢えて日本人同士の交流などは図る必要はないという建前論もある。しかし、本来米国社会で歴史・伝統・文化などというものは米国料理と同じで、日本や欧州の文化と比較すればあるのかないのか判らないほどのそれこそ薄っぺらいものであるがゆえに、同様に何か「心が乾く」という症状に陥る事もあるだろう。やはりそこは気心の知れた日本人同士の交流を自然に求めてしまうという事もあるのではないだろうか。

いやはや、日本でも米国でもいわゆる裸一貫で苦労してきて何とか米国人になりきった日系人一世や二世から見れば、日本人も何と贅沢になったものであろうかと思われる事だろう。