2010年8月24日火曜日

映画「442部隊」

米国陸軍の日系人二世部隊、442連隊が第二次大戦の欧州戦線でドイツ軍を相手に輝かしい戦績を上げた事は広く日本人の間でも知られている。この輝かしい戦績が並大抵なものではなかった事とそこに至る背景をこのドキュメンタリー映画は見事に伝えている。その戦績とは部隊の規模と従軍期間の割合から一言で言えば「米軍史上最も犠牲者が多く、また最も多くの勲章に輝いた部隊」であるという事実だ。

米軍人に授与される勲章の最高位は Medal of Honor(名誉勲章)である。名誉勲章は米軍人の特筆すべき勇敢な行動や自己犠牲に対して大統領から授与されるものであり、南北戦争から現在までに約 3,400名の米軍人が受賞している。民主、共和の両党から大統領候補になったジョン・ケリー氏、ジョン・マケイン氏がベトナム戦争で受賞し、選挙戦で大いに宣伝されたパープルハート(戦死、戦傷者に自動的に授与される名誉戦死傷賞)とは別格のものでもあるが、近年では適用条件が極めて厳しいものにされており、実際上は戦死者のみが対象となっている。この最高位の名誉勲章を一つの連隊で 21名もが受章したのはこの 442部隊をおいて他にはない。この21名の兵士はダニエル・イノウエ上院議員をはじめとして全員が二世の日系人である。

442部隊の戦績の一例を上げれば、南フランスの深い森の中でドイツ軍に包囲されたテキサス大隊の救出作戦である。この救出作戦はそれまでに何回も試みられたがことごとく失敗しており、急遽それまで北イタリアと南フランスで数々の武勲が伝えられていた442部隊に敢えて出動命令が下ったのである。この作戦では救出されたテキサス大隊の兵士全員の数が 200名あまりであるのに対し、442部隊の死傷者が約800名という常識を逸するものであった。442部隊の二世兵士は自分達が「使い捨て」にされる事を充分知りながら、敢えてその理不尽な作戦を喜んで引受けたのである。

しかし、この映画はそういった過去の武勲を単に伝えるだけのものではない。観るものの心に深い感動を与えるのは、442部隊で参戦した日系二世元兵士達へのインタビューのシーンである。彼らの威厳に満ちた表情、気品のある立ち居振る舞い、謙虚な語り口、人間愛に満ち溢れる眼差し、これらが全てを物語ってくれるのである。彼らは本来米国人でありながら、隔離されたり、敵性外国人と見なされ強制収容所に送られたりで、その苦境を跳ね返そうとばかりに多大な犠牲を払ってまでも自分達を差別した祖国米国の為に命をかけて戦った事実、それが背景にある。

ところで、2000年に電通総研が60カ国価値観調査というのを実施したが、その中で「あなたは国の為に戦うか」との設問に 60か国中 Yesと答えた比率が最低の15%というのが日本である。日本では47%が明確にNo、戦わないと答えている。因みに同調査で Yesと答えた比率の最高の国はベトナムで94%、第二位の中国が 90%で、その他韓国 74%、ロシア 64%、米国 63%と周辺国では Yesが圧倒的である。一体、日本人の精神はどうしてここまで荒廃してしまったのであろうか。

あらためてこの 442部隊のドキュメンタリー映画は同じ DNAを持つ日系人二世の人間としての立派な姿勢を伝える事で、芝居やフィクション映画では決して表現できないものを作り出し、観客にホンモノの感動を与える事が出来るのであろう。日系人に関するドキュメンタリーの名作「東洋宮武の覗いた時代」を更に上回る、すずきじゅんいち監督による見事な作品である。