2009年11月28日土曜日

ベルギーという国


つい最近決まったEUの大統領がベルギー人である事から、ベルギーという国の欧州における「ユニークでしたたかな」そのあり方を再認識した。

ベルギー、正式には「ベルギー王国」は欧州の国々の中でも特異な存在だ。まず北部のフラマン語(オランダ系)地区と南部のワロン語(フランス系)地区に二分される国であり、共通なものはカトリックが主流(国民の75%)という事くらいであろうか。ドイツ側の国境の街、アーヘンを西へ向かうとほぼ一直線に伸びる高速道があり、それがそのままベルギーを貫通しておよそ400kmほどでパリにつながっている。

もともとこの国は中世にはオランダと一緒の公国であったが、プロテスタントのオランダは、その後カトリックのハプスブルグ家スペインが支配する事になったベルギーから独立したものである。従って残ったベルギーという国はその地域で言えば、どちらかと言えばゲルマン系の北部とラテン系の南部がカトリックという宗教を軸に一緒にまとまった国と言えるのではないだろうか。

欧州各地を旅行するとこのいわゆるゲルマン系(北欧、英国、ドイツ等)ラテン系(フランス、イタリア、スペイン等)の明らかな違いを肌で感じるはずである。まずゲルマン側は比較的清潔で家もきれいに保たれているが食べ物は日本人の舌からすると今ひとつであるのに対し、ラテン側は少々汚く、家もきれいに行き届いて掃除されているとは言えないかもしれないが、食べ物に関してフレンチ、イタリアンに代表される様に西洋料理としても世界一級である。

仕事に関してはゲルマンの方が何事も几帳面な日本人には相性があうであろうが、ファッションやデザイン、芸術に関しては一般的にはラテンに軍配が上がってしまう。この二種に大別される文化の接点となるのがこのベルギーであり、そのまま少し南に下がってスイスとなるのである。

日本人の駐在員とその家族が多く住むデュッセルドルフで日頃素朴すぎるドイツ料理に飽きた人たちはわざわざ国境を越えてベルギーのワロン地区に古くから伝わる正統派のクラシックフレンチを食べに出掛ける事となるのであるが、玄人筋によればこの一帯のフレンチはパリのフレンチよりもより洗練された本物だとの意見もあるほどである。

地形は南部が比較的丘陵が多いのに比べ北部は平坦で農業栽培向けである。首都ブラッセルは北部の中心にあるがここだけは国際都市だけにフランス語が中心である。歴史的に大国に隣接する小国の運命として西のナポレオンのフランスから侵略されたり、東のドイツ帝国さらにはヒットラー政権に侵略されたりで正に左右からの往復ビンタであった。

従い、国民性としては中々練れている面もあり、欧州統合の象徴としての EU本部もブラッセルにあったりで、EU外からの欧州への企業進出の際にもその中立性からここに欧州本部を置く日系や米国企業も少なくない。

一時はアフリカのコンゴがベルギー領であってそこから算出される銅などの金属資源で潤った時期もあったがコンゴの独立後はさして強い産業や工業力もなく、隣国のオランダとルクセンブルグと共同体を組んで生き残りを図ると同時に多額の奨励金を出して企業誘致も盛んに行ってきた。しかし近年、欧州の東側の開放によりその地位は相対的に低下してきている。日本人にとってはおいしく上品な味のチョコレートと絵のように美しい古都ブルジェのイメージが重なる国であるが、大国にはさまれる国は政治的にはしたたかさで生き残るしかない。

そんなベルギーでも国防政策の基本は、冷戦終結した今でも NATO体制でのいわゆる Nuclear Sharing による米国の核抑止力においている。この Nuclear Sharingにおいては自国内で核兵器使用の際は自国の軍隊を提供し、核兵器を自国内に備蓄する事が前提となっている。国防を考えれば周辺に潜在的な脅威が最早存在しないベルギーの様な国でさえ過去周辺から侵略され続けた歴史を思えばごく当たり前の事である。日本の新政権が過去の米国との核持込密約なるものを暴露したいなら、この際このベルギーの様な非核保有国の現状を見て、あらためて同時に日本の非核三原則なるものの見直しの議論を進めるべきであろう。

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