2009年11月13日金曜日

イラク戦争体験談


Veterans Dayの事を書いた後、理髪店に行くとたまたまそこの日本人のオヤジの息子がDVD機器を修理に来ていた。彼、K君は韓国人の母親との間に生まれた米国籍を持つ日韓ハーフである。従って、日韓英の三ヶ国語を完璧にこなす trilingualである。そんな彼が大学進学の資金稼ぎに親父とも相談して米陸軍に入隊し、5ヶ月の訓練の後に二年間兵士としてイラク戦線に二回参戦した。無事満期除隊したのは半年前であるが、現在は地元の Community Collegeに通いながら大学編入を目指し、カリフォルニア州の州兵に登録して訓練も受けている。州兵に登録する事により学業途中で再度アフガニスタンに派遣される可能性は低くなるらしい。また除隊後は大学の学費のみならず、生活費までが国から支払われるとの事だ。

そこで、なかなか無い機会なので少しイラク参戦の個人的体験談なるものをK君に聞いてみた。K君は背が高くがっちりした体格の、アジア的風貌の物静かで真面目で素朴な感じがする若者である。以下は敢えてイラク戦争の是非そのもののには言及せず、参戦した若者から聞いた話を単に列記するだけに留める。

まず彼のイラクでの所属部隊と任務はパトロール部隊であり、階級は Specialist、(技術兵、伍長と並ぶ階級)であった。基本給は 2年の勤続経験で月に約 $2,000である。バグダッド郊外に配置されて、毎日担当地域をパトロールするのが彼の部隊の任務である。具体的にはどういうパトロールをしていたかと言えば、地元イラク人コミュニティーと頻繁に連絡をとり、地元住民の声を聞いて、イラク軍、警察と協力しながら地域の治安と安全に協力したという事である。この辺は派手な戦闘部隊のイメージよりも、むしろサマワでの自衛隊の地道な活動ともつながるものがある。

そんな日々の中で、K君がイラク参戦で最も辛く嫌な経験であると言ったのは、部隊の仲間が二人戦死した事である。彼の親父によると、かなりのショックであった様で、除隊後もその事についてはあまり話したがらないらしい。逆に彼に、入隊し参戦する事でプラスになった事は何かと聞いてみると、迷わず「部隊の仲間と家族の様な強い絆を持つ事が出来た事」だと答えた。勿論、仲間の中には国家や国際社会に貢献しているとの自尊心の様なものを感じているのもいたらしいが、「僕はそこまでは考えなかった」と素直である。

イラクに派遣されていた仲間の人種構成を聞いてみると、前線部隊にはやはりヒスパニックと黒人が多かった様に思うが、アジア人は極めて少なく全体の2%くらいで、彼の周辺で日系人や日本人の兵士は見た事はなかったと。またバグダッドでは2名の日本の自衛隊員に会った事があると言っていたが、これはサマワ本隊との連絡係であろう。指揮官も士官学校を出たエリートの軍人ではなく一般の大学に設置されている教育課程の一つであるROTC(Reserved Officers’ Training Course、予備役将校訓練課程)の単位取得者が将校となっているのが多いらしい。

彼の所属する小隊(Platoon)は 20名くらいの編成で、普段は兵舎として大型トレーラーハウスの様な所に 6名づつが住み込んでいて、部隊の調理兵による料理を食べていたらしい。歩兵部隊の大部隊だと catering会社によるビュッフェ大食堂があって、そちらの方がずっとうまい飯が一杯食えるんだがなと笑っていた。

ところで前線の軍隊では休日などあるのかと聞いてみたが、そんなものはなく、24時間勤務もあれば 3時間勤務もあり3日間連続の野営もあったそうだ。二回目の派遣期間は 15ヶ月の長期であったが、その間の休暇日数は 18日だけでその期間は米国に帰っていたらしい。この15ヶ月間連続派遣はさすがに厳しかったらしい。

パトロールに出ていない時間は兵器や装甲車、トラックの整備点検があって、これには結構時間がかかったらしい。全くの自由時間ではあまり自由もないのでテレビや DVDを見たり、ビデオゲームをするといったごく普通の若者らしいものである。兵舎ではCNNのニュース等もそのまま見る事が出来るが、仲間も口を揃えて言っていた事は、メディアはどうして都合の悪い事を刺激的に誇張して伝えるのであろうかという事で、前線での事情をうまく伝えていないとの不満もあった様である。

以上の通り、現地での米軍の活動がイラク戦争の開戦初期の様な戦闘部隊中心のものから counterinsurgencyといわれる治安維持部隊中心へのものに変わった為に、K君の話を聞いていると、あたかも一定期間、気候条件の厳しい土木建設作業現場に派遣される若者の体験の様な感じを受けるが、現実には2名の仲間が戦死しており、そこにはやはり日本の若者の日常とはかなり違ったものがあって、色々考えさせられるものがあった。

K君の様に軍役を満期除隊して、大学進学する場合はその費用のみならず、カレッジから大学への編入の際の最優先権までが与えられるとの事である。また彼の家族によれば、陸軍本部からは本人が休暇で帰国した際や除隊帰国後の精神的状態について頻繁に問い合わせが来るらしく、兵士の心のケアにまで相当配慮されている様でもある。

振り返って、日本ではチンパンジーよりも劣ると言われる(驚くべき発言をする)防衛大臣にはとてもとても現場の自衛隊官の気持ちなど推し量る気持ちさえもないのであろう。

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