2009年11月25日水曜日

在米台湾人


在米台湾人の政治組織は30以上あると言われており、その中には国民党系と民進党系、更には民進党系ではない独立派という様々なものだ。特に西海岸のカリフォルニア州には台湾人社会が集中して見られ、李登輝元総統や許世楷元駐日大使が何度もロスアンゼルスに立ち寄られて日本人向けと台湾人向けで二回づつに分けて講演をされている。黄文雄氏も今や在カリフォルニア日本人の間では人気の講師でいつも会場は日本人であふれんばかりである。もっとも彼ら在米台湾人独立派に言わせれば講演会には必ず国民党系の人間が紛れ込んでいますけれどねと。

ところで在米台湾人の中でもいわゆる「日本統治時代の日本語世代」の方々は今では 70歳代後半以上となられており、生まれてから日本語教育で育ち、日本文化も理解しておられるからその勤勉さや謙虚さ、立ち居振るいといったものは戦後生まれの我々団塊の世代も学ぶべきものが多い。彼らは総じて親日であり、また台湾独立派である。先日もある日本人の学者のお宅に掲げてあった「天壌無窮」の掛け軸について、この世代の台湾人のC先生から「それはね、天皇陛下の世は永遠にと言う意味だよ」と逆に教えてもらったりしたものだ。

在米台湾人の中には C先生の様に米国で PhDを取られて、米国社会の中で知識層として活躍されていた方が多い。「在米台湾人PhDの会」というのもあり、C先生は時々東部まで総会に参加される為遠出をされている。おそらく PhDの総数とその比率で言えば、在米日本人よりも圧倒的に多いだろう。特に日本語世代の中で、今でも日本語を母国語として流暢に喋られる方々は、そもそも日本統治時代の台湾社会では比較的上層社会におられた方々ではないだろうか。そうしたインテリ層であるがゆえに日英中台のmultilingual であり、また頭脳面のみならず、資金面でも米国留学の機会が得易かった事、従い国民党圧政時代の台湾をいち早く抜け出す事が出来たという事ではないかと思う。

彼ら日本語世代の方々から聞く国民党の圧政ぶりは 2.28事件や白色テロと言う言葉に代表される様にすさまじい。敗戦で日本軍が去った時に入れ替わりで大陸からやって来た国民党の兵士の姿を見て、彼らは唖然としたというのが本音だろう。いわゆる「うるさい犬が去り、汚い豚が来た」という表現だ。そんな日本語世代の方々を大きく落胆させる出来事が昨年はじめの台湾立法院議員選挙と総統選挙での民進党の大敗である。これは一面ではあきらかに彼ら在米台湾人と、国民党圧政の経験がない若年層を中心とする台湾国民との意識のずれを示すものであって、在米台湾人の日本語世代は広い意味での台湾人社会では既に minorityになっているのである。

そもそも台湾の法的地位なるものは、結論から言えばサンフランシスコ条約(第2条、第23条、第25条)と日華平和条約で「日本が台湾・澎湖の権原を放棄した」事をとりきめただけで、放棄後台湾・澎湖がどこに帰属するかは全く未定のままである。連合国最高司令官命令第一号では「日本軍の降伏先が蒋介石将軍」であると決められただけで、その後国民党政府が台湾・澎湖を実効支配しているにすぎない。これだけはいかなる文献、条約を点検しても明白である。従い、法的には米軍の支配下、つまり米国の信託統治状態ではないかと、その米国人としての地位確認を米国の裁判所に訴訟している台湾人の学者もいる。

さて、そういう中でも国際政治の「力が正義の現実」は着実に進行している。ますます強まる国際社会での中国の政治、経済、軍事、文化面での存在感と影響力と、それと対照的に米国の中国に対する立場はますます弱体化して来ている。最早、昨年の選挙での台湾国民の選択は point of no return を越えてしまったと見るべきであろう。台湾国内では人民元が流通していると聞くので、三通政策は(通商、通航、通郵)はかなり定着したという事だろう。もう中国は武力行使、いや武力による威圧などは全く要らない。台湾国民が意識しようがしまいが、興隆する「中華」をその identityに選んだという事だ。偶々、今日車で外出した時に前の車の後部に青天白日旗(中華民国旗)の目立つシールが貼られているのを見た。興味があるのでわざわざ追い越して、車の中を見てみると普通の台湾人風の若者男女 3名が乗っていた。なるほどこれがやはり在米台湾人若年層の identityなのかと再認識させられた。

そうなると我々部外者の日本人は単に消え行く日本語世代の方々に同情し、話を聞くだけでは真の理解にはつながらない。日本人側では彼らに単純に同調して中国の民主、自由、人権、法治の問題や国民党政権の圧政の歴史を繰返しあげつらう事で理解を示すのではなく、現在の台湾国民の identityの問題や台湾人の政治心情というものを客観的に深く分析し、理解しておく事が大事だ。それが例え「台湾は台湾人の国」を妥当だと考える我々にとって悲観的、絶望的なものであってでもだ。

ところで一時この台湾問題で民主党としては思い切った発言をされた現職のあの大臣殿はその後何か発言されているのであろうか。それとも闇将軍にきつく牽制、制止されているのであろうか。

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