大震災から一ヶ月が過ぎ、被災地東日本の復興に目が向けられる様になってくると、果たしてその復興資金を容易に調達できるのかと、いかに調達するのかが議論の焦点となってくる。前者の点については既に多くの経済学者が指摘してきている様に、世界一の債権国である日本には充分な資金源があるので資金調達そのものは全く問題がない事は言うまでもない。問題はむしろその調達方法にある。
まず「世界一の債権国日本」の説明であるが、極めて常識的な事であって理解し易い。これはちょうど家庭における家計と同じで、急病や事故、災害で急な出費を迫られる時に果たして家庭内にそれだけの緊急出費に耐えられる収入なり貯金なり資産があるのかというのと同じだ。国民経済的な観点から国家の家計を「投資と貯蓄」の面で捉えれば、日本は国内で必要とされる投資をはるかに上回る貯蓄があって、それが現在では海外への投資に振り向けられている。その結果が対外純資産残高という形で日本が世界で第一の債権国(つまり最大の金貸し)になっているのである。また、このストックでの対外純資産が増えるとフローでの所得収支の黒字(利子や配当の受け取りが支払いを上回る)の増加を生み出す結果となり、更に資産が蓄積されていく事になるのである。
この「最大の金貸し」を数式で表そうとすれば、対外純資産残高 = 対外資産残高 – 対外負債残高 となる。つまり「海外の資産額」から「海外からの借金額」を差し引いた差額が「対外純資産残高」となる。具体的な数字としては、昨年 5月の財務省発表による 2009年末の数字で、対外資産554.8兆円 –対外負債 288.6兆円 =対外純資産 266.2兆円となって、日本は世界最大の債権国である。因みに第二位の中国が 167.7兆円、三位のドイツが 118.9兆円である。一方最大の債務国、つまり「世界の借金王」はご存知米国で 314.8兆円の純負債を抱えている。米国は純負債第二位のブラジルをはるかに引き離してダントツの世界一でその額も突出している。その一つの表れが、日本の保有する米国債残高約 8,859億ドル、85円換算で約 75兆円にある。
仮に東日本大震災の復興資金として阪神大震災の復興資金である 10兆円の 2倍の 20兆円がかかるとしても、それだけの資金をカバーするだけの「資産のストック」と「新たなに余剰資金を生み出すフローの力」を日本は充分に抱えているという事だ。今これから復興基金を作って復興債を発行するとなれば、個人向けに発行する復興債と金融市場を通じての復興債の二種類で調達できる。個人向けの復興債では家計部門の金融資産である 1,400兆円の中のたった1%程度を振り向けるだけでも14兆円が賄える筈だ。
問題はこの復興債券の償還財源であるが、元財務官僚の森信茂樹氏が提案しているのがドイツ統一後の旧東独側の復興資金に使われた連帯付加税(Solidaritätszuschlag)方式である。連帯付加税とは 1995年のドイツ統一後に特別に導入された税で法人税・所得税額の 5.5%(当初は 7.5%であった)が付加課税される。ドイツでの法人税の現行基本税率は 15%(実効税率は平均約30%)であるので、これの 5.5%である、0.825%がプラスされるという事だ。
この税方式のメリットは法人税・所得税の税率と体系はそのままにして現行制度を維持しつつ、広く、薄く、国民全体に連帯を求めて、能力に応じて負担を求めるというところにある。これであれば、消費税率アップの様に被災者にも負担を求める結果となったり、低所得者層への負担増とはならない。また、新たに国債を発行して将来の世代につけを回す様な事にはせず、また日本の国債の格下げや、金利の上昇、投機筋による国債投売りをもたらす事もなく、財政危機の更なる悪化にもつながらない。
現在の法人税・所得税収入の合計は約 20兆円であるから、仮に10%の復興付加税としても上記の復興費用20兆円のうちの国費負担が10兆円とすれば5年で償還できる範囲である。従来、貯蓄過多で国内での有利な投資機会がなく海外資産投資に振り向けられていた資金が、復興債購入により被災地での生活インフラや住宅インフラに振り向けられれば、これこそが有効需要の創造となって波及的な景気回復につながる道でもある。
まさに政治指導者三流でも日本は経済一流であるので、政治に頼る事なく安心・安全の為の資金は充分手当て可能なのである。
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