2011年3月26日土曜日

シュレーダー前首相

ある読者の方から、昔ドイツのハノーファーに行かれた事があるとのコメントを頂き、ふとその地域が政治基盤であったシュレーダー前首相の事を思い出した。シュレーダー前首相はばりばりの SPD(社会民主党)党員で、元学生運動の闘士であり、またあの有名なドイツ赤軍派テロリストの弁護士もしたというほどの筋金入り左翼だ(った)。その輝かしい経歴が示す様にこの前首相の面構えと低音の声はドスが効いている。この点、同じ国のトップにありながら弱い立場のものには怒鳴り散らしていばるが、肝心の危機に際しての国民の前や、外交舞台では借りてきた猫の様に弱々しい小心者の「逃げ菅」総理とは対照的だ。

しかし、シュレーダー氏は堅物一方のガリガリではない。そのドスの効いた顔付きには少し似合わないが、首相就任当時にはやりだした三つボタンの背広をいち早く着こなすおしゃれだ。またドイツ人らしくきちんと計算した様に12年ごとに離婚と再婚を繰返し、現在の美人のドリス夫人は 4人目である。この夫人とはすでに12年を過ぎている頃だが、さすがに氏もまもなく67歳だけに5人目というわけにはいかないだろう。

欧州ではこういう私生活面の事はその政治家の評価には全くといって影響しない。一昔前のフランスのミッテラン元大統領の愛人発覚時での「それがどうした」発言や、あるいは最近のサルコジ大統領の愛人騒ぎなどからも明らかである。またサルコジ氏と大統領選で戦った社会党党首のロワイヤル氏(女性)は正式な婚姻関係のない党員仲間との間に4人の子供がいたり、高校に無償の避妊薬を配布するなどのウルトラリベラルである。

愛すべきフランス人の名誉の為に言っておくが、何事もお堅いドイツ人でもそのリベラルさは同じだ。現在のメルケル政権の No.2である副首相兼外相のヴェスターヴェレ氏はゲイである事を公表し、現職についてからは男性パートナーとの正式な結婚式を挙げている。しかし、この事が政権に影響を与えたという事はない。現在のメルケル政権の不人気の理由はPIGSへの巨額の財政支援であろう。この点、ニュージャージー州知事がゲイである事がカミングアウトしてたちまち失職に追い込まれたという「保守的な」米国とは事情が違う。

さて1998年の CDU連立からから SPD連立への政権交代ではシュレーダー政権には緑の党(正式には同盟90/緑の党)が加わった。その緑の党から副首相兼外相として入閣したフイッシャー氏も学生時代は過激派に属し、議会には薄汚れたジャケットやスニーカー姿で登壇したユニークな存在だ。このフイッシャー氏も5度ほど(正式な)離婚暦があり、私自身の記憶では80年代初めに議会でトレードマークのスニーカー姿で登壇した際には確か英語ではAXXXXXXを表す言葉を発していたのを憶えている。

そんな左翼過激派コンビでも政権に就けば就いたで大いなる変身をせざるを得ないのはどこの国でも同じだ。特に国防安保面では鳩山氏の迷走普天間発言の様な愚かで世間知らずな事などは絶対しない。早速1999年の NATOによるコソボ空爆をいち早く支持し、また 2001年の米国によるアフガン侵攻も躊躇する事なく支持してNATO体制下のドイツ連邦軍を派兵までした。当時この変身ぶりについて知合いのドイツ人と話した時に彼は「いつまでも過ぎ去った過去の左翼過激派の立場にこだわり続けるバカはいないよ」と極めておおらかであったのを憶えている。彼は多くのドイツ国民と同様政権交代を支持していた。

それにしても何事も中途半端なのが菅政権である。あれほどまでも徹底したドイツの左翼過激派が、政権につくや国防安保面ではこれも徹底してタカ派に変身するというのとは大違いだ。被災現場で連日ご苦労されている自衛隊員の皆さんには、吉田茂元首相が防大第一期生の卒業式で述べた名言通り、こんな菅政権でも「皆さん、辛抱して欲しい」といつまで言い続ける事ができるのだろうか。

吉田元首相の防衛大第一期生卒業式での祝辞
「自衛隊が国民から歓迎されちやほやされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡の時や災害派遣の時なのだ。言葉をかえれば、君達が日陰者である時の方が日本は幸せなのだ。耐えてもらいたい」

0 件のコメント:

コメントを投稿