2011年2月28日月曜日

映画「The King’s Speech」を見て感じた事

映画評論家奥山氏の予想通り、今年のアカデミー賞作品賞はThe King’s Speechが獲得した。この映画は作品賞のみならず監督賞、主演男優賞、脚本賞の4分野でアカデミー賞を獲得したという事で早速映画館に見に出かけてみた。夕方5時ごろから始まる時間に飛び込んだのであるが、さぞや大人気で多少混雑との予想に反していつもの様に全くのガラガラ。約 500の客席に対し、観客はたったの5人だけであり、この映画に限らず最早米国では映画は映画館で見るものではなく、自宅で見るものであるのに変わってしまっている様である(米国では新着映画は封切りから短期間で DVD化されたりテレビ放映される為)。

映画そのものは英国とオーストラリアの会社により英国人の監督が英国人とオーストラリア人の俳優を使って作ったものであり、ハリウッド映画ではない。喋る英語は本来英国の王族、貴族や上流階級が喋る英国的な抑揚のあるものではなく、米国人やアメリカ英語に慣れてしまっている我々が聞いても自然なものである。国王になる人が吃音矯正の為にFXXXを連発したり、SXXXを連発するくらいで思わず笑ってしまうので、あくまでも娯楽作品として見るのが良いだろう。

この映画で言語聴覚士役のジェフリー・ラッシュは、今回助演男優賞は逃したもののアカデミー賞受賞経験のある個性的な名優、怪優である。10年ほど前に Quillsという映画で発狂したサド侯爵役を演じていたが、まさにこの俳優の面構えと目つきでこそ演じられるハマリ役であった。最近はハリウッド映画のパイレーツオブカリビアンにバルバロッサ役で繰返し出ているが、悪者の役柄があまりにも単純でもったいないほどだ。どういうわけかハリウッド映画にはこういう一味もふた味も深みのある顔の俳優があまり見当たらない。

さて映画評論の方は既に色々な方が述べておられるので触れないが、この映画の終わりの方で吃音の英国王の演説との対比で敵国ドイツのヒトラーの演説姿が実際の録画版で出て来る。有名な 1933年2月に前年の選挙結果に基づき首相に就任した時の演説だ。この演説の趣旨は「他国に頼ってはいけない、あくまでも自助努力によって(第一次大戦の敗戦からの)ドイツを復興させねばならない」というものである。更に「ドイツ国民自身での労働、勤勉、決然、不屈さ、頑強さによってこのドイツを再び繁栄させるのだ」というくだりである。

ドイツ語では In uns selbst allein liegt die Zukunft des Deutschen Volkes wenn wir selbst, diesem Deutsche Volk vorfuehren, durch eigene Arbeit, eigenen Fleiss, eigene Entschlossenheit, eigenen Trotz, eigene Beharrlichkeit, dann werden wir wieder emporsteigen……. となる部分であるが、映画ではこの部分を使っている。

この eigene (アイゲネ、「自ら自身の」と言う意味)という力強い響きの言葉を繰返し使う事で聴衆の感情を音感で酔わせる見事な演説テクニックであると言われている。実はこの eigene こそが、バラマキマニュフェストにはない、今の日本に真に求められる「自助、自律、自立」につながる考えである。何分世紀の大悪人ヒトラーの演説であるので、世間様から誤解されぬ様取り扱い注意ではあるが、選挙で選ばれた一政治家の演説として、その時代背景を思い起こしながら聴くと興味深いものである。

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