2011年2月22日火曜日

アンドラ

欧州にアンドラという山間の美しい国があるのをご存知だろうか。日本人の中でご存知の方は多分欧州で消費財商品の販売経験がある方だろう。アンドラはスペインとフランスに囲まれたピレネー山脈のふもとにある人口7万人、面積約 500km2の小さな国だ。アンドラは風光明媚な観光地としてスキーで有名であるのと同時に、国全体が免税地域の様な感じになっていて、お買物をしにスペインのバロセロナから車で入るケースが多い。欧州で仕事をしていて、ただ「アンドラに行ってきます」と言えば、「ああ、スキーですか」となるが、「ちょっと仕事でアンドラに行ってきます」と言えば「ご苦労様」とニヤリとされるだろう。

この国が正式に独立したのは 1993年であり、国連にも加盟しているが EUには加盟していない。それまではスペインとフランスの共同保護領の様な地域であった。言語はスペイン語でもフランス語でもなく、スペインのバロセロナ地域のカタロニア語(フランス語に近い)である。

さて、日本の消費財製造企業が欧州各国の販売代理店を集めて販売会議を行う場合、各国の販売状況や販売価格の話になると、このアンドラが度々話題に上る。特にアンドラに隣接するフランスとスペインの代理店あたりからは、販売不振の言い訳にこのアンドラでの安値販売による悪影響が上げられるのだ。このアンドラと言う国に入ると道路の両側にファッション製品や酒タバコ類、家電製品等を売る店がずらりと軒を並べるが、彼らはどこからこういった外国製品を仕入れるのか言えば、一つは欧州各国の販売総代理店からの横流しと、もう一つは在庫処分に困った各国の小売業者だ。

各国の販売総代理店が意図的にアンドラに商品を流す場合は、契約で決められた販売テリトリー以外の地域に商品を流通させてしまうのであるから、メーカーとの代理店契約に反する事となり、悪くすれば契約違反で代理店権を取り上げられてしまうリスクがある。また仮にどこかの国の代理店がそういった販売を行えば、アンドラに隣接するフランスとスペインの代理店が価格低下の被害を受けるので黙ってはいない。色々と手をまわして、何処の国の代理店が横流ししているのかを突き止めてメーカーへのご注進で垂れ込むからである。

一方、メーカー側としてもこのアンドラ価格が出来るだけその他欧州全域の末端価格に影響が出ない様に最新の注意を払う必要がある。それは、まず各国の末端の小売店側での小売マージンが少なくなったり、販売量が減ったりとの事で小売店から代理店を通じてクレームを受ける事につながり、ひいては末端価格低下により自らの工場出しの価格が低下してしまう結果につながるからだ。しかし EUとて日本や米国と同様、消費者利益保護と公正取引の観点から再販価格維持等に関する独禁法上の規制があり、メーカーがどこまで末端価格や流通業者をコントロールできるかには、法的にも実務的にも限界があり、特に企業側でのコンプライアンスが叫ばれている昨今は要注意である。ここにアンドラの業者の存在できるニッチな場所があるだ。

さて、そういう目で実際のアンドラの業者の店に入って行って販売価格を見たりしていると、店の奥から一見眠った様な目だがドスの効いた目つきのオヤジが目を光らせているではないか。我々の服装や態度を見てどう見ても観光でやって来ているのではなく、仕事で来ているのがミエミエであるからだ。しかし、考えてみればこういう言わばゴミ捨て場の様な市場があるからこそ流通段階での過剰在庫が処分され、歪な市場状況が矯正され調整されて、再びメーカーはエネルギッシュに生産活動を継続できているのかも知れない。

世の中には光と影あり、表通りを歩む人間がいれば、裏街道を歩む人間もいる。時にはその裏街道が大変な役割を持つ事があるのはビジネスのみならず特に政治の世界でも同じだ。今現在注目を浴びている「ワル」と言われる方をそう言う目で見ると、どうもこのアンドラの商店主の様な面構えに通じるものがあると思えて仕方が無い。

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