2011年2月18日金曜日

米国西海岸 White事情 – 要塞都市とメガチャーチ

南カリフォルニアの Orange Countyには韓国系、イラン系、ベトナム系等のマイノリティーの人達が米国内での新たな新天地を求めて集まり、そこにそれぞれの大きなコミュニティーを形成してきているユニークな地域である。しかしそれ以前に本来この地域は中西部(オハイオ、ミシガン、インディアナ、イリノイ)等の白人中産階級保守層がニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコ等の都市部リベラル層に対抗し、従来の伝統的価値を守り通す為の聖域の様にして新たに開拓してきた新天地でもある。

その具体例の二つが渡辺靖慶大教授のフィールド調査に基づく著書で詳しく紹介されている。一つ目は Coto de Casaでの Gated Community(要塞都市)であり、もう一つが Lake ForestのSaddleback教会(メガチャーチ)である。いずれもが白人保守層の安住できる場所としての象徴であるが、また同時に統計上からも全米で最も犯罪発生率の低い超安全地域でもある。

米国では不動産業者が開発した住宅地一帯をゲートで囲み、出入口に守衛と警備員を配置して無用の者を侵入させないという万全な防犯対策をしている所があるのは一般的だ。しかし、Coto de Casaの様に東京の港区と同じ様な面積の一つの街自体を大々的にゲートで囲み要塞化してしまうという極端な例はあまりない。要塞化された中には専用の高級ゴルフ場はあるが学校や病院といった公共施設は様々な点(公共性から外部者が入って来るのを阻止できない等の配慮)から中には置かず、近隣の街を利用する。渡辺教授の調査ではこの街の白人比率は85%と高く、5人に一人は大学院卒で平均給与は7万ドルと州全体平均の3倍、住宅価格はバブル後でも依然百万ドル以上という。

一方、メガチャーチのSaddleback教会の方も Coto de Casaに近い郊外の同じ地域に存在する。何よりもこの教会を全米で有名にしたのは、この教会の創設者であるリック・ウォレン牧師が2009年1月のオバマ大統領就任式で開会の祈祷を執り行った事だ。それに先立つ 2008年の大統領選挙運動期間中にはこの Saddleback教会にオバマとマケインの両候補を招き、ホストとして両者間での初めてのテレビ公開討論を開催した事からもウォレン牧師の影響力が並外れたものである事が伺われる。

この教会はプロテスタントの南部バプテスト派に属し、毎週約2万人もの参加者メンバーを抱える巨大な教会である。ウォレン牧師はSan Jose生まれの57歳で牧師の家庭で育ち、神学の修士号を取得した後に牧師となったが、その風貌は大柄でメタボ体型であり一見牧師には見えない。ウォレン牧師はまたベストセラーとなっている著作や、貧困・病気との闘いや教育拡充の面での社会貢献活動、国連やダボス会議、有名大学等での講演で世界的にはすっかり有名となったが、その社会的、政治的スタンスは一貫して「保守派」である。同性間結婚や堕胎に反対し、共和党のブッシュ元大統領と親しい事も公言している。従ってオバマ大統領が就任式に保守派のウォレン牧師を起用する事を決めた事にオバマ支持のリベラル派からは相当な反発が出たが、同大統領の掲げる「両党派間の融和」の象徴としてこれは予定通り実行された。

もともとカリフォルニア州は圧倒的にリベラル色の強く民主党が制する州であり、昨年の中間選挙と州知事選挙に於いても上院議員と知事は民主党が確保した。また、2004年と2008年のいずれの大統領選挙に於いてもこの州では民主党が選挙人を獲得している。米国ではこの大統領選挙の County(郡)別の得票結果を地図上で青(民主党)と赤(共和党)に色分けされたものが公表されているが、これを見ると隣接する Los Angeles Countyを含め殆どの Countyが民主党であるのに対し、この Orange Countyだけがまるで周辺の青(民主党)一色の中で「陸の孤島」の様に赤(共和党)であるのが目立つ。

今や米国の総人口は3億人をはるかに超し、中国、インド、韓国をはじめとするアジア地域から、あるいは隣接するメキシコをはじめとする中南米地域から、旧社会主義体制の国々からと続々と移民が押し寄せてきているが、それが最も顕著な地域が西海岸であり、カリフォルニア州である。また同じ様に米国内からも続々と新天地を求めて米国人が移住して来る州の一つがカリフォルニア州でもある。新たな移民により更に多様化する文化と価値観と人種の西海岸で、この Orange Countyの様に米国人自身が従来の米国の伝統的価値を守る為に新たな新天地を作るという皮肉な結果を生み出しているのである。

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