2011年2月15日火曜日

米国西海岸イラニアン事情

エジプトの民衆によるムバラク退陣への民主化要求の動きを「革命」と評したイランの大統領が自国の民主化要求デモを武力鎮圧するというのはまさに皮肉な事だ。このイランの民主化要求デモは何もテヘランだけに限られてはいない。昨年、一昨年とロサンゼルス近郊では道路を埋め尽くすイラン系の人達によるイラン政府への大規模な抗議行動が繰り返されてきた。車社会の米国では大都市以外では歩いてデモ行進をするのは意味がないので、ショッピングモール近くの交差点付近で道路沿いに大勢の人間が「Free Iran」というプラカードや革命以前のイラン国旗を持って通過する車の列に訴えかけるのである。勿論、事前に警察へ届けている為に警官によって交通整理はされてはいるが、あまり見かけない光景に通過する車は減速したり、クラクションで賛同の意志を伝えたりするので、交通渋滞は避けられない。しかし、大方の米国人は現在のイラン政府には批判的である為、このイラン系の人達にはすこぶる同情的である。

イランから米国への移民の波が大規模に押し寄せたのは 1979年のいわゆるホメイニ革命の時にパーレビー体制下の富裕層や知識階級の人間が米国に逃れて来たのがきっかけである。イラン系の人々は同じ様に米国に逃れてきた南ベトナム系の人々とは違って、学者や医者、技術者、企業経営者といった知識層が多く、米国社会の各方面で活躍している。30万人以上と言われているイラン系の人達の大半は西海岸におり、ロサンゼルス近郊にはそういったイラン系の人々の大きなコミュニティーが存在していて、例えば高級住宅街で有名なビバリーヒルズの人口の2割はイラン系であり、2007年にはイラン系の市長までが誕生した。彼らは近年ではより安全できれいな Orange Countyに集まってきている様であり、イラン人経営の大型食品スーパー Wholesome Choiceはいつも中東系の客で賑わっている。

イラン人と言えば、胡瓜が切っても切れない関係である。米国に来た日本人は普通のスーパーで売られている胡瓜が大味で水っぽくてとても口に合うものではないので、日本の胡瓜の様に味がしまっていて小ぶりの胡瓜がイラン人の店で売られているのを見ると思わず飛びついてしまうものだ。しかもイラン人のスーパーで売られている胡瓜の量は半端でない、大きな樽に山積みされていて、その中からよりどりで選んだ10本くらいを手づかみで買ってもせいぜい 2-3ドルの安さだ。イラン人はこの胡瓜をデザートとして果物の様に食べたり、あるいはヨーグルトと一緒に胡椒や塩で食べる様である。胡瓜に限らず、イラン人のスーパーでは野菜の種類と量が驚くほど豊富であり、米国の一般のスーパーの様に画一的な冷凍食品やジャンクフード、スナック類が中心ではないところが嬉しい。それに日本人好みのするエスニックな食材も数多くあって「文化」を感じさせてくれる。

そもそもイラン人は欧州、アーリア系であって中東、セム系のアラブ人ではない。イランの歴史を振り返れば、有名なアリア「オンブラマイフ」で始まるヘンデルのオペラ「クセルクセス」の主人公であるペルシャ王のクセルクセス一世がギリシャ遠征を行ったのが紀元前480年であるからその頃からの歴史豊かな大国である。戦後の冷戦体制下における米国支援のパーレビー体制では腐敗や貧富の格差等様々な矛盾を生じさせたが、一応は国家の急速な近代化が図られ、宗教もゾロアスター教、ユダヤ教、キリスト教と多様であって、現在の様にイスラム原理主義一色に染まるのには違和感さえ感じさせる。テヘラン支局勤務経験のあるNHK解説委員の説明ではエジプトでは民衆のデモで簡単に政権が崩壊したが、イランでは中々そうはいかないらしい。何よりも徹底した弾圧と秘密警察の監視、更には軍と警察とは別個に革命防衛隊なる軍事組織があって、がっちりと現政権をガードしているらしい。本来ならこのイランにこそ、エジプトやその他どこの中東アラブ諸国よりも早く本当の民主主義が確立される筈なのだが。

1 件のコメント:

  1. LAカウンティにあるコミュニティカレッジで働いています。こちらでも、現在イラン系学生が4割を占め、来年度からは6割に達すると予測されています。ここ2年で急激に増えたようです。その謎を探してこちらのブログに辿り着きました。なるほど。。。です。ありがとうございます。ただ、余り裕福な階層ではなさそうです。

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