TPP参加賛成論の中に安全保障面での日米同盟の観点から、参加すべきだとの意見もある。日本の安全保障政策での基軸は日米同盟であるという事は大多数の政党と国民の共通認識だ。しかしながら、東アジアにおける安全保障上の最大の懸念材料を持つ中国という国に対して、同盟国米国は日本をしのぐ勢いで経済面、財政面、投資面、貿易面でますます深いつながりを築き、ますますその依存度を高めてきている。米国債保有高、ドル建て外貨準備高、輸入相手国、貿易赤字の相手国、これら全てにおいて米国に対して中国は日本を抜いてのダントツトップの強い位置にあるのだ。いずれにせよ本来、TPPと日米同盟に関しては全く違う次元での議論である筈だ。
日本をTPPに引き込みたい米国は、おそらく野田政権に対して、日米同盟を意識させる事で無言の圧力の様なものをかけてきている事は容易に想像させられる。野田首相が APECで TPP交渉参加を表明すべきかどうかまさに国論が二分されている時期に、安全保障の専門家であるジョセフ・ナイ氏やアーミテージ氏、それにキッシンジャー氏までが相次いで訪日してきているのは単なる偶然ではない。米国は野田首相がそういった外交交渉の駆け引きの経験が浅い事やしたたかさに欠けるとみて、ここぞとばかりの攻勢をかけてきているのである。
それでは百歩譲って、安全保障と日米同盟の観点から、TPPへの参加を決めたとしたところで日本の安全保障面、防衛力は盤石なのかと言えば、とてもそう安心はしておられない様に環境が激変してきている。まずは上記の通りの米国の中国に対する経済的・財政的な依存度が極めて高い事、更には米国の財政赤字の面からの軍事費用の大幅削減が見込まれる事がある。仮に本当に中国との有事となれば、集団的自衛権さえも認めていない(日米安保条約では米国は日本を守る義務があるが、日本は米国を守る義務はない)日本という同盟国の防衛の為に米国の若者が血を流す事に対して米国内で米国民の理解を得るのは難しいと理解しておくべきだろう。
こうした米国の国力の弱体化の一方では、米国内での中国パワーの飛躍的な伸びが顕著である。米国への諸外国からの留学生数を見れば、毎年中国がこれまたダントツの一位であり、しかも人数の増加率が昨年30%、今年22%の大幅 up である。今や米国への中国人留学生数は16万人近くとなり外国人留学生の5人に 1人は中国大陸からの学生である。また、中国の富裕層が米国の投資移民プログラムを利用して大挙して米国の永住権、市民権を得ようとする動きが活発化してきている。ちょうどカナダに香港からの移民が大挙して押しかけた様に中国人は本来自らの国家を信頼していないのであろう。
この様に米国、特にもともと中国系が多く住みついている西海岸では「中国化」が着々と進み、本当に米国が中国と事を構える事などは米国の国内事情からして果たして可能であるのだろうかと思えてくる。仮にいざ有事となっても、米国という覇権国家としては同盟などという「義」よりも自己中心的な「利」を優先させるのが、衰退過程での生存本能であろう。米中の軍事衝突というのは現実的ではない様に思われてくる。
こういう状況下では、日本としては当然の事ながら「自主防衛」と「集団的自衛権容認」への道を着実に推進するのが正しいであろう。中国の軍事的プレゼンスの拡大を脅威として捉えているのは日本だけではなく、台湾は言うまでもなく、韓国、フィリピン、ベトナム、インドなどである。我々は今一度尖閣問題の時の中国のとった行動を思い出すべきだろう。日本人社員を言わば人質状態にし、中国からの観光客は止め、レアアースの輸出を制限し、と何でもありの国である。中国は関税よりも何よりも人民元を不当に安く操作している事自体から、TPP参加の交渉をする資格さえないのである。中韓抜きの TPP構想では、アジアの成長を取り込むなどという標語は全くのインチキであると言わざるを得ない。
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