2011年11月16日水曜日

米国から見るTPP参加問題

現在の日本が直面する課題に原発問題と TPPがあるのは言うまでもない。いずれも日本の先行きを決める重要なものであるだけに種々議論がなされてきている。その中で従来と少し違った様相を見せて来ているのが、こういった課題に対して、今までのいわゆる保守 vs 革新といった対立軸では見られなかった新たな動きがあることだ。例えば、保守層の中から脱原発を強く主張したり、TPP参加に強く反対する意見が出ている事である。また一方革新層(民主党での)では財界と一緒になって米国主導の TPP参加を強く後押ししている事である。先日も参議院予算委員会で社民党の福島党首が TPP問題で野田総理に厳しく詰め寄った際に、後ろに控える自民党議員が大声で「その通りだ!」とヤジを入れるなど思わず苦笑させられる場面もあった。そもそも保守や革新などという言葉自体、メディアが作り出した誤ったものであるのには違いがないが。

それでは何故こういった新たなねじれ現象が出てきているのであろうか。それは原発もTPPも米国的なもの、米国的価値観に基づくもの、あるいは米国主導のものであるからだろう。そういった米国中心的ものに対する日本人側での見方に変化が現れているのではないだろうかと思われる。特に、2007年後半のリーマンショックとそれに続くオバマ政権の誕生で明らかに日本人の米国に対する見方が変わってきている様だ。2000年頃を前後して、米国経済が「インフレなき高成長を維持出来るNew Economyの時代に入った」などと言って賞賛されたのが、実は米国民が浅ましくも身の丈知らずの過剰消費や住宅バブルに踊らされただけであったという事や、連邦債務残高問題がデフォルト寸前までに追い込まれ、議会での混乱で今日現在与野党間での合意さえ達成できていない事など、とても米国が世界のリーダーたるお手本の国ではないという事が次々と明らかになってきているのである。

特にオバマ政権が当初Change などという掛け声で変革を大いに期待されたにも拘わらず、こうした深刻な問題に対して、全くもって解決の方向性さえ示す事ができていないのには、米国内のみならず国際社会からのその落胆と批判の度合いは大きい。あの大統領就任直後のプラハでの核兵器廃絶宣言なるものや、ウォ―ル街の経営者に対する厳しい言葉は一体何だったのであろうか。そもそも当初オバマ大統領が国民に実現への努力を公約した、医療の国民皆保険制度や、投機に走らない銀行、格差社会是正(貧富差を示すジニ係数では米国は先進国で最高レベルの0.46に対し日本は最低レベルの0.30未満)、こんなものは日本に既に長らく当たり前のものとして存在するものではないか。

こうした事を思い起こせば、日本国民にとっては戦後から長く続いてきた「米国従属姿勢」をそろそろ見直しすべきだとの「覚醒」の機会となってきているのであろう。こうした覚醒というものは保守層では明確に見られるが、一方の政権政党では明らかに真逆の動きを見せているのがこの TPP参加問題だ。民主党内でのTPP参加交渉反対の署名をしなかった 133名の議員のリストを見ると、つい最近まで何かと反米姿勢を貫き通してきたであろう旧社会党系の議員も多く見られ、このTPP参加問題を理解しようとする国民の頭の中は混乱してしまう。彼らは今や財界・経団連と一緒になって日本の農業を壊滅させてしまう危険性を大いにはらむこの米国主導のTPPへの参加を目論んでいるのだ。

野田首相はじめ前原政調会長、枝野経産相といった現在の政権与党の首脳陣の経歴を見ても、彼らが米国に留学したり米国に住んだりという経験はなく、果たしてどこまで米国というもの米国人というものを自らが体験し理解しているのであろうか。今時ビジネス社会では米国で仕事をしたり住んだりといった経験はごく普通の事である。ビジネスマンであれば仕事を通じて米国人がその仕草、外見や社交辞令とは違っていかに(日本人的に見れば)あくどいと言えるほど自己利益に厳しいかを充分体験している筈だ。日本人ビジネスマンの米国での体験を通じてのとても「信じられない!」逸話は数多くあるが、何でもありのここ米国社会では実際に日常で起こっているのだ。そうした体験の積み重ねから、それを充分理解し割り切った上で、そういう相手ともうまくわたり合っていけるだけの免疫力、したたかさ、知恵や実力が養われるのだ。

実は、保守層の側でTPP参加問題への抵抗感、警戒感が強い背景には、現政権幹部よりもよりこうした「米国体験を通じた免疫力が多い」事にあるのだろう。G20のオバマ大統領との会談で野田首相が「TPPが全品目対象」と言ったか言わなかったかで早くも両政府の発表内容が違う事に対し、自民党幹事長が「危なっかしい!」と野田首相の甘い姿勢を批判するのは当たり前の事だ。オバマ大統領にとって外交交渉音痴の野田首相を相手にする事などは赤子の手を捻るよりも御し易い事なのだ。

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