2010年1月22日金曜日

バルバドス


前号でハイチの治安問題について述べてが、案の定外務省の説明によると自衛隊による救援隊派遣までに時間がかかったのは、米国や中国と違って無防備で非武装の派遣だけに現地の治安状況の把握に手間どったという事らしい。何も中国の救援部隊がいの一番に駆けつけたからといって人道的に素晴らしいと言えるかどうか、要はPKO派遣の中国人の被災者が多くその救助がどうも第一目的だったのではないかと思われるからである。事実、現地では中国からPKOで派遣された8人もの烈士が犠牲となっているのである。ハイチという国は地震が起こった混乱状態では商店の略奪のみならず、今では子供を誘拐して売り飛ばすという事まで起きているらしい。ハイチは本来、そういう国なのである。

さて、そのハイチと同じカリブ海にある島国であり、同様にアフリカ大陸からの奴隷の子孫が大半を占める国ながら、フランス人が統治するのではなく、大英帝国のイギリス人が統治するといかなる国となるのか。これを示すのがバルバドス、英語風に発音すればバルベードスである。バルバドスはカリブ海の南、ベネズエラから近い所に浮かぶ人口 30万人足らずの小さな島国である。長らくイギリスの植民地であったこの島では、砂糖キビのプランテーションの為にアフリカ大陸から奴隷として連れて来られた黒人の子孫がその人口の 9割を占める。

1966年に英国女王を元首とする英連邦の一員の立憲君主国として独立し今では欧米で人気のリゾートである。この国の良い所はカリブ海各国の中でもずば抜けて治安が良い事と英語が通じる事である。観光客は島内の観光の足に地元の乗り合いバスに安心して乗れる事と、深夜でも食事とかレゲー音楽を堪能しに出歩けられるほどの治安の良さである。反対にホテル代等の物価は高く、長期滞在には向いていない。12月末の休暇に極寒のNew Yorkあたりから一年の疲れをいやしにこの島に向かう人は多く、夕方に島に到着後寝込んだ翌朝、海岸に面して開け放されたホテルのダイニングルームで味わう朝食は忘れられない。

暖かい朝日は部屋一杯に差込み、潮風は心地よく流れ込み、おまけに熱帯特有のきれいな色をした小鳥までが部屋に迷い込んできたりしてまさに天国である。リゾートと言っても米国式のぎらぎらした様相のものではなく、全てあくまでも地味で静かで控えめで英国式であるのがうれしい。夜は昔英国人が持ち込んだとされるラム酒がここの気候にピッタリであり、魚料理もなかなか洗練されている。

食事の後は何と言ってもカリブ海が本場のレゲーのライブである。ライブと言ってもテントの中でバンドの直ぐ前で立ったままその独特のリズムに乗って体を揺すりながら延々と聞くのであるから、終わってからもそのリズムはしばらく耳から離れなくなる。昼間の観光スポットには国立の民族博物館の様なものがあり、そこではアフリカ系の音楽と歌が聴けるのであるが、「アフリカに帰りたい」との詩を奴隷が歌ったとされる単調なリズムの物悲しいトーンが印象的であった。

本当に感心するのはさすが英国の統治である。乗り合いバスに乗っている黒人の市民は皆質素だが清潔で小奇麗な服装をしており、両足を閉じて背筋を伸ばしていて騒がず物静かでイギリス育ちのワイフがまるで一昔前のよき時代のロンドンのバスの様だと笑っていたほど行儀が良いのである。バスが込んでいても自然と譲り合ってしかも外国人観光客だからといって特別な振る舞いもしない自然体である。

特にNew Yorkあたりに住んでいて、ここに来ると地元の人は英国式の英語で喋るから New Yorkの黒人には悪いが同じ黒人でいてどうしてこんなに品が良いのだろうかと感心してしまう。比較的短い滞在はあっというまに終わり、底冷えのする喧騒の New Yorkに戻ると、本当にこの島の値打ちを改めて感じさせられるのである。

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