2011年6月15日水曜日

共和党予備選候補討論会

来年の大統領選挙に向けての共和党予備選候補者の討論会が6月13日にニューハンプシャー州で行われた。2時間に亘るこの討論会は CNNで中継されたが、今回は実は第二回目の討論会である。第一回目は先月サウスカロライナ州で開かれているが、本命とされるミット・ロムニー氏、元下院議長のニュート・ギングリッチ氏、それに今回直前に新たに名乗り出た女性のミシェル・バックマン氏が不参加であったから、今回が実質的には第一弾と言えよう。

今後共和党予備選に立候補が見込まれるのが、前中国大使のジョン・ハンツマン氏、元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏、テキサス州知事のリック・ペリー氏などである。一時騒がれたサラ・ペーリン候補は今の所立候補の動きがない。

さて今回の討論会の見ものはなんと言っても本命とされて先頭をダントツで走るロムニー氏に他候補がどれだけ迫る事が出来るかであったが、結果はどうやらロムニー候補の1人勝の様相であった。ロムニー氏以外の 6候補の顔ぶれは、ニュート・ギングリッチ氏、ロン・ポール氏の古参組とハーマン・ケイン氏(経済人、黒人)とミシェル・バックマン氏(女性)の新参組、更には元上院議員のリック・サントラム氏と前ミネソタ州知事のティム・ポーレンティー氏の有力組の3派に分かれている。

今回の討論会でのロムニー氏の実質的な対抗馬はポーレンティー氏である。同氏はかねがねロムニー氏のマサチューセッツ州知事時代の医療制度をオバマ大統領の医療制度と重ね合わせる事で批判してきたのであるが、今回は初戦である事もあり、敢えて表面だった対決姿勢は見せない作戦をとっていた。ロムニー氏側も今回はもっぱら批判の矛先をオバマ大統領の「雇用機会を創出しないままに財政赤字を巨額に膨張させた」失政に向ける事にしていたので、結果的にはロムニー氏の独走体制は依然揺るぎない。

今回ロムニー氏の最も注目を浴びた発言は、当面の与野党間での争点である政府債務残高上限の引き上げ問題である。ロムニー氏の立場は「オバマ大統領が歳出削減へのリーダーシップを取らない限り引上げには賛成しない」と共和党内に共通するもので明確である。

今後ロムニー氏が最も注意し、かつある種の妥協が求められる相手は党内右派、つまり Tea Partyのグループであろう。今後党内右派はロムニー氏の候補擁立に対しあらゆる反対工作をしかけてくるであろう。現在のところの世論調査ではロムニー氏が右派のサラ・ペーリン氏をはるかに上回っているものの、今後のペーリン氏の動きが注目される。次回の討論会は 8月11日にアイオア州で行われる予定だ。まだまだ共和党内での長い戦いは始まったばかりである。

2011年6月13日月曜日

オバマ大統領の再選への動き

選挙民が常に移り気である事は米国であれ日本であれ洋の東西を問わない。来年の大統領選挙で再選を目指すオバマ大統領の人気は米国経済の雲行きが怪しくなってきているのと同時に、このところ更に下降気味だ。ちょうど 2009年の日本での総選挙での「政権交代」騒ぎの様に、2008年末の米国での「Change」の熱狂振りは一体何であったのであろうか。

オバマ大統領が選挙戦に勝利したのはリーマンショック直後の 2008年11月である。人々は不動産バブルの崩壊により自ら保有する株・証券・債券・住宅等の資産の壊滅的な目減りを嘆き、今こそこのバブルの張本人である Wall Streetのヘッジファンドや金融機関を厳しく規制すべきだとして、庶民の味方であるオバマ氏を選んだのかも知れない。

当時、オバマ大統領はこの Wall Streetの銀行家達を「Fat Cat」として厳しく非難したものだ。Fat Catとは政治用語で、選挙資金の大口献金により自らの利益の為に何かと政策に口出しする「御用商人」を意味する。オバマ大統領はまた同時にこうした銀行家達が驚くべき高額の所得を得ている事についても酷評していたのである。

しかし、その同じ大統領が今回は何と大統領再選出馬の正式発表を前にて、この Wall Streetの銀行家達をわざわざ White Houseの夕食会に招いたのである。更に近々ニュヨークの高級レストランに更なる数の銀行家達を招待して選挙戦への資金協力を訴える予定でもある。この背景にあるのは、ここに来て来年の大統領選での共和党の最有力候補とされるミット・ロムニー元マサチューセッツ知事が精力的に選挙資金集めのキャンペーンを開始しているからである。ロムニー氏こそは Venture Capitalの経営者としての経験からも、より Wall Street寄りのイメージが強い。また最近の世論調査ではオバマ氏よりもロムニー氏がその支持率において優勢だ。

オバマ大統領に対しては、その半アフリカ系という人種的な面と、貧困層の出身、更には弁護士として貧困地域でボランティア活動をしていた市民運動家という経歴から、日本人はともすれば庶民の味方との誤った印象を受けがちだ。

しかし、オバマ大統領こそは 2008年の大統領選で史上まれに見る最高額の$380百万(約304億円)という巨額の選挙資金をかき集めたまさに小沢氏もびっくりの「お金こそが全て」の金権なのである。小沢氏と違うのは表面上 internetでの個人献金という新しい手法を使うという事でよりクリーンなイメージを前面に出しつつ、実際はヘッジファンドやあらゆる既存組織からの献金が大きい事をうまく包み隠せていた点である。前回の大統領選挙での選挙資金拠出で協力したのは、ヘッジファンドのみならず、従来の民主党の支持基盤である労働組合、黒人・ヒスパニックのマイノリティー、環境保護団体、メディア、映画界であろう。

しかし、今回はいずれのグループにおいてもオバマ大統領への大きな落胆ぶりは隠せない。そこにおける実態というものは日本の民主党政権と同様に、「Change」の掛け声のもとにバラマキの空約束で選挙民をうまく釣れたとしても、現実の政策としては外交面でも財政面でもそう思い切った変革というものは出来ないという事だ。特に米国はオバマ政権に移行した以降の 2009年と2010年に巨額の財政赤字を積み重ねて、政府は今や経営破綻同然であり、世界の超大国の地位から滑り落ち様としている状態である。

政治の世界はまさにリアリティーの世界である。また政治は結果責任を問われる世界でもある。想定外の災害、想定外のバブル崩壊、いずいれも全く言い訳が効かない。果たして来年の選挙戦は ABO(anyone but Obama)となるのであろうか。

2011年6月8日水曜日

Debt Ceiling(米連邦債務残高の上限規定)

米国では連邦政府の債務残高、つまり国債発行額の上限が議会により規定されている。 1917年の国債発行時に設定された115億ドルの上限以来、実に100回以上にもわたり、この連邦政府の債務残高の上限引上げが議会により繰返し承認されてきている。最近では 1995年から 12回にわたり上限引上げが行われているから、ほぼ毎年の恒例行事と言えるかも知れない。

しかし、今回は政府がリーマンショック後の金融危機回避の為に巨額の緊急対応を行った結果、2009年と2010年の各単年度赤字額は2年連続で2000年代に入っての年間平均赤字幅の4倍にもなる突出した額になってきている。まさに経営破綻寸前とも言える極めて異常で深刻な事態である。

既に米国政府の債務残高は現行の上限額である14兆2940億ドルに達している模様である。しかし、これが即 default、債務不履行の宣言となるかは別であり、政府としては何とか二つの年金支払いを先述べする事で二ヶ月先の 8月2日をその上限切上げ決定の期限としているのである。

そこでオバマ大統領としては、2023年までの約 2兆ドルの歳出削減と増税との組合せで4兆ドルの赤字削減案を提示する事で、何とか上限引上げを議会に承認させ様としているが、一方では下院で多数派を占める野党共和党は6兆ドルの歳出削減案を掲げての財政健全化を、上限引上げへの条件とするなどの揺さぶりをかけている。

歳出面を見ると(1) 医療費(高齢者と低所得者への援助) (2) 社会保障費(年金等) (3) 国防費 (4) 国債利払い、これらトップ4項目で実に歳出全体の 72%を占めていて、この中でも医療費と社会保障費の合計は42%と全体の半分近くになっている。

歳出項目を大別すれば、Entitlementと言われる社会保障費等の「義務的支出」(法律で毎年の歳出額が自動的に決まる)と、国防費や一般経費などの「裁量的支出」(毎年ごとに立法措置で歳出額が決まる)となるが、義務的支出には Pay-As-You-Go条項という財源確保条件が付けられていて、支出を増加させる場合はそれに見合う増税か、歳出削減がなされていなければならない。そこで四つの重要項目の中で歳出削減の手がつけ易いのが裁量的支出である第三番目の国防費である。

現在の上院仮議長(大統領、副大統領に次ぐ地位)であり、また上院歳出委員会委員長である日系のダニエル・イノウエ議員が来日した際に普天間基地移設問題に関し苛立ちを隠さない発言をしているのは、実は米議会内部で大幅な軍事費削減の圧力がある事を示唆しているものと思われる。つまり、米国は日本防衛、極東アジア防衛の為にいつまでも巨額をかけてまでその軍事的プレゼンスを維持できないぞという事であろう。

そうなれば中国は以下の三つの点から、米国に対しては格段に優位な地位に立つ事となる。
(1) 本来、米国債保有残高とドル建外貨準備高の両面から見れば、いずれも全体の 1/4を占める最大の債権国の地位にある
(2) 米国が財政危機から軍事費を削減せざるを得ず、極東アジアの軍事プレゼンスを後退させる可能性がある
(3) 日本が震災復興費用捻出の為にドル建外貨準備高の削減や米国債を売却する様な事になれば米国の中国への依存度が更に突出して高まる

安全保障面での日米関係を考える上では、米国は米国で財布の事情がある事を日本は充分認識しておくべきであろう。

2011年6月7日火曜日

QE2

FRBによる QE2が今月末に終了しようとしている。QE2とは量的緩和策(Quantitative Easing)第二弾の事である。量的緩和策とはFRBが国債やMBS(住宅ローン担保証券)を購入する事によって民間の金融機関に代わり、直接かつ多量に市場に必要資金を供給するものである。第一弾のQE1はリーマンショック後の金融危機が懸念された 2009年3月から 2010年3月までに実施され、国債のみならず MBSの買取りも行われた。一般的な量的緩和策は日本の日銀も2001年から 2006年の 5年間にわたり実施したが、QE2ほどの短期間に集中して大規模に行うものではなかった。

今回の第二弾では、昨年11月に、失業率の更なる悪化を懸念したFRBが8ヶ月間にわたり総額 6,000億ドル(約50兆円)もの国債の追加購入を行う事を決めたものである。これにより株価が若干回復して消費が伸びたものの、一方では余剰資金が原油市場に流れてガソリン価格の高騰(オバマ政権発足時から二倍の 水準の$4/ガロンを越した)を招き、米国内での消費を冷やすという副作用が出てきている。

それでは日本の国家予算の半分以上にもなる資金を市場に注いで、果たして失業率が改善され、住宅価格の下落が止まったのであろうか。現時点での答えはNOである。失業率は昨年11月の9.8%から今年3月の8.8%までに4ヶ月連続して下落してきたものの、4月からはこれが反転して5月との2ヶ月間は連続して再び 9%台へと上昇傾向を見せてきている。雇用者数に関しては、オバマ政権の景気刺激策により過去 5ヶ月間順調に回復してきたものの、その規模はリーマンショック後失われた600万人とも言われる雇用の回復には依然その足元にも及んでいない。それどころか、ここにきて雇用者数の増加率が縮小してきている。

また、S&PのCase-Shiller住宅価格指数によると、全米主要20都市での住宅価格は今年 3月にリーマンショック後の最安値を更新した。S&P 住宅価格指数は 2000年1月を100とした数字で毎月表されるが、そのピークは 2006年7月の 206.52 であり、今年3月時点での最安値での指数、138.16はピーク時の2/3となっている。

リーマンショック後の価格下落を見れば、2009年4月で価格は一旦底をついたが、その後のオバマ政権の住宅取得優遇策もあって若干の回復傾向を見せた。しかし、この優遇策も昨年前半で終了した事もあって、昨年 7月から 8ヶ月間連続で価格が下落してきており、今回の最安値更新はまさに二番底だと言えよう。

価格下落の主たる要因は、明らかにローン返済の滞りによる差押さえ(Foreclosure)物件の増加であろう。差押さえ物件の住宅販売全体に占める割合は、第一四半期における全米平均では約3割にもなり、州別では住宅バブルの激しかったネバダ州が53%、続くカリフォルニア州とアリゾナ州がそれぞれ 45%にものぼっている。これら差押さえ物件の価格は通常大幅に値引きされており、これが住宅価格全体を引下げるという悪影響を及ぼしている。

米国の抱える問題は金融政策の行き詰まりのみではない。より大きな問題は経営破綻寸前とも言われるほどの米国政府が抱える巨額の財政赤字問題である。米国では議会が国債発行額の上限を決めているが、既に現在の国債発行額は上限の 14兆2,940億ドル(約1,172兆円)に達してしまっている。今後議会があらたに上限額を引き上げない限り、政府は今期末までに必要とされる約 7,380億ドルの支出が出来なくなり、機能マヒに陥ってしまう事となる。

現在、米議会ではこの「国債発行上限額の引上げ」が「財政赤字削減額の幅」とからめての政治課題となり、来年の大統領選を見据えての共和・民主両党間での争点の中心となっている。従って、オバマ政権としては、2009年に実施した総額 7,870億(約65兆円)にものぼる景気刺激策の様な思い切った財政措置は最早打てる状況にはない。

以上、金融・財政両面での米国政府の打つ手は極めて限られてきており、今後の景気動向を見極める上での大きな懸念材料となっている。