選挙民が常に移り気である事は米国であれ日本であれ洋の東西を問わない。来年の大統領選挙で再選を目指すオバマ大統領の人気は米国経済の雲行きが怪しくなってきているのと同時に、このところ更に下降気味だ。ちょうど 2009年の日本での総選挙での「政権交代」騒ぎの様に、2008年末の米国での「Change」の熱狂振りは一体何であったのであろうか。
オバマ大統領が選挙戦に勝利したのはリーマンショック直後の 2008年11月である。人々は不動産バブルの崩壊により自ら保有する株・証券・債券・住宅等の資産の壊滅的な目減りを嘆き、今こそこのバブルの張本人である Wall Streetのヘッジファンドや金融機関を厳しく規制すべきだとして、庶民の味方であるオバマ氏を選んだのかも知れない。
当時、オバマ大統領はこの Wall Streetの銀行家達を「Fat Cat」として厳しく非難したものだ。Fat Catとは政治用語で、選挙資金の大口献金により自らの利益の為に何かと政策に口出しする「御用商人」を意味する。オバマ大統領はまた同時にこうした銀行家達が驚くべき高額の所得を得ている事についても酷評していたのである。
しかし、その同じ大統領が今回は何と大統領再選出馬の正式発表を前にて、この Wall Streetの銀行家達をわざわざ White Houseの夕食会に招いたのである。更に近々ニュヨークの高級レストランに更なる数の銀行家達を招待して選挙戦への資金協力を訴える予定でもある。この背景にあるのは、ここに来て来年の大統領選での共和党の最有力候補とされるミット・ロムニー元マサチューセッツ知事が精力的に選挙資金集めのキャンペーンを開始しているからである。ロムニー氏こそは Venture Capitalの経営者としての経験からも、より Wall Street寄りのイメージが強い。また最近の世論調査ではオバマ氏よりもロムニー氏がその支持率において優勢だ。
オバマ大統領に対しては、その半アフリカ系という人種的な面と、貧困層の出身、更には弁護士として貧困地域でボランティア活動をしていた市民運動家という経歴から、日本人はともすれば庶民の味方との誤った印象を受けがちだ。
しかし、オバマ大統領こそは 2008年の大統領選で史上まれに見る最高額の$380百万(約304億円)という巨額の選挙資金をかき集めたまさに小沢氏もびっくりの「お金こそが全て」の金権なのである。小沢氏と違うのは表面上 internetでの個人献金という新しい手法を使うという事でよりクリーンなイメージを前面に出しつつ、実際はヘッジファンドやあらゆる既存組織からの献金が大きい事をうまく包み隠せていた点である。前回の大統領選挙での選挙資金拠出で協力したのは、ヘッジファンドのみならず、従来の民主党の支持基盤である労働組合、黒人・ヒスパニックのマイノリティー、環境保護団体、メディア、映画界であろう。
しかし、今回はいずれのグループにおいてもオバマ大統領への大きな落胆ぶりは隠せない。そこにおける実態というものは日本の民主党政権と同様に、「Change」の掛け声のもとにバラマキの空約束で選挙民をうまく釣れたとしても、現実の政策としては外交面でも財政面でもそう思い切った変革というものは出来ないという事だ。特に米国はオバマ政権に移行した以降の 2009年と2010年に巨額の財政赤字を積み重ねて、政府は今や経営破綻同然であり、世界の超大国の地位から滑り落ち様としている状態である。
政治の世界はまさにリアリティーの世界である。また政治は結果責任を問われる世界でもある。想定外の災害、想定外のバブル崩壊、いずいれも全く言い訳が効かない。果たして来年の選挙戦は ABO(anyone but Obama)となるのであろうか。
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