米国では連邦政府の債務残高、つまり国債発行額の上限が議会により規定されている。 1917年の国債発行時に設定された115億ドルの上限以来、実に100回以上にもわたり、この連邦政府の債務残高の上限引上げが議会により繰返し承認されてきている。最近では 1995年から 12回にわたり上限引上げが行われているから、ほぼ毎年の恒例行事と言えるかも知れない。
しかし、今回は政府がリーマンショック後の金融危機回避の為に巨額の緊急対応を行った結果、2009年と2010年の各単年度赤字額は2年連続で2000年代に入っての年間平均赤字幅の4倍にもなる突出した額になってきている。まさに経営破綻寸前とも言える極めて異常で深刻な事態である。
既に米国政府の債務残高は現行の上限額である14兆2940億ドルに達している模様である。しかし、これが即 default、債務不履行の宣言となるかは別であり、政府としては何とか二つの年金支払いを先述べする事で二ヶ月先の 8月2日をその上限切上げ決定の期限としているのである。
そこでオバマ大統領としては、2023年までの約 2兆ドルの歳出削減と増税との組合せで4兆ドルの赤字削減案を提示する事で、何とか上限引上げを議会に承認させ様としているが、一方では下院で多数派を占める野党共和党は6兆ドルの歳出削減案を掲げての財政健全化を、上限引上げへの条件とするなどの揺さぶりをかけている。
歳出面を見ると(1) 医療費(高齢者と低所得者への援助) (2) 社会保障費(年金等) (3) 国防費 (4) 国債利払い、これらトップ4項目で実に歳出全体の 72%を占めていて、この中でも医療費と社会保障費の合計は42%と全体の半分近くになっている。
歳出項目を大別すれば、Entitlementと言われる社会保障費等の「義務的支出」(法律で毎年の歳出額が自動的に決まる)と、国防費や一般経費などの「裁量的支出」(毎年ごとに立法措置で歳出額が決まる)となるが、義務的支出には Pay-As-You-Go条項という財源確保条件が付けられていて、支出を増加させる場合はそれに見合う増税か、歳出削減がなされていなければならない。そこで四つの重要項目の中で歳出削減の手がつけ易いのが裁量的支出である第三番目の国防費である。
現在の上院仮議長(大統領、副大統領に次ぐ地位)であり、また上院歳出委員会委員長である日系のダニエル・イノウエ議員が来日した際に普天間基地移設問題に関し苛立ちを隠さない発言をしているのは、実は米議会内部で大幅な軍事費削減の圧力がある事を示唆しているものと思われる。つまり、米国は日本防衛、極東アジア防衛の為にいつまでも巨額をかけてまでその軍事的プレゼンスを維持できないぞという事であろう。
そうなれば中国は以下の三つの点から、米国に対しては格段に優位な地位に立つ事となる。
(1) 本来、米国債保有残高とドル建外貨準備高の両面から見れば、いずれも全体の 1/4を占める最大の債権国の地位にある
(2) 米国が財政危機から軍事費を削減せざるを得ず、極東アジアの軍事プレゼンスを後退させる可能性がある
(3) 日本が震災復興費用捻出の為にドル建外貨準備高の削減や米国債を売却する様な事になれば米国の中国への依存度が更に突出して高まる
安全保障面での日米関係を考える上では、米国は米国で財布の事情がある事を日本は充分認識しておくべきであろう。
2011年6月8日水曜日
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