FRBによる QE2が今月末に終了しようとしている。QE2とは量的緩和策(Quantitative Easing)第二弾の事である。量的緩和策とはFRBが国債やMBS(住宅ローン担保証券)を購入する事によって民間の金融機関に代わり、直接かつ多量に市場に必要資金を供給するものである。第一弾のQE1はリーマンショック後の金融危機が懸念された 2009年3月から 2010年3月までに実施され、国債のみならず MBSの買取りも行われた。一般的な量的緩和策は日本の日銀も2001年から 2006年の 5年間にわたり実施したが、QE2ほどの短期間に集中して大規模に行うものではなかった。
今回の第二弾では、昨年11月に、失業率の更なる悪化を懸念したFRBが8ヶ月間にわたり総額 6,000億ドル(約50兆円)もの国債の追加購入を行う事を決めたものである。これにより株価が若干回復して消費が伸びたものの、一方では余剰資金が原油市場に流れてガソリン価格の高騰(オバマ政権発足時から二倍の 水準の$4/ガロンを越した)を招き、米国内での消費を冷やすという副作用が出てきている。
それでは日本の国家予算の半分以上にもなる資金を市場に注いで、果たして失業率が改善され、住宅価格の下落が止まったのであろうか。現時点での答えはNOである。失業率は昨年11月の9.8%から今年3月の8.8%までに4ヶ月連続して下落してきたものの、4月からはこれが反転して5月との2ヶ月間は連続して再び 9%台へと上昇傾向を見せてきている。雇用者数に関しては、オバマ政権の景気刺激策により過去 5ヶ月間順調に回復してきたものの、その規模はリーマンショック後失われた600万人とも言われる雇用の回復には依然その足元にも及んでいない。それどころか、ここにきて雇用者数の増加率が縮小してきている。
また、S&PのCase-Shiller住宅価格指数によると、全米主要20都市での住宅価格は今年 3月にリーマンショック後の最安値を更新した。S&P 住宅価格指数は 2000年1月を100とした数字で毎月表されるが、そのピークは 2006年7月の 206.52 であり、今年3月時点での最安値での指数、138.16はピーク時の2/3となっている。
リーマンショック後の価格下落を見れば、2009年4月で価格は一旦底をついたが、その後のオバマ政権の住宅取得優遇策もあって若干の回復傾向を見せた。しかし、この優遇策も昨年前半で終了した事もあって、昨年 7月から 8ヶ月間連続で価格が下落してきており、今回の最安値更新はまさに二番底だと言えよう。
価格下落の主たる要因は、明らかにローン返済の滞りによる差押さえ(Foreclosure)物件の増加であろう。差押さえ物件の住宅販売全体に占める割合は、第一四半期における全米平均では約3割にもなり、州別では住宅バブルの激しかったネバダ州が53%、続くカリフォルニア州とアリゾナ州がそれぞれ 45%にものぼっている。これら差押さえ物件の価格は通常大幅に値引きされており、これが住宅価格全体を引下げるという悪影響を及ぼしている。
米国の抱える問題は金融政策の行き詰まりのみではない。より大きな問題は経営破綻寸前とも言われるほどの米国政府が抱える巨額の財政赤字問題である。米国では議会が国債発行額の上限を決めているが、既に現在の国債発行額は上限の 14兆2,940億ドル(約1,172兆円)に達してしまっている。今後議会があらたに上限額を引き上げない限り、政府は今期末までに必要とされる約 7,380億ドルの支出が出来なくなり、機能マヒに陥ってしまう事となる。
現在、米議会ではこの「国債発行上限額の引上げ」が「財政赤字削減額の幅」とからめての政治課題となり、来年の大統領選を見据えての共和・民主両党間での争点の中心となっている。従って、オバマ政権としては、2009年に実施した総額 7,870億(約65兆円)にものぼる景気刺激策の様な思い切った財政措置は最早打てる状況にはない。
以上、金融・財政両面での米国政府の打つ手は極めて限られてきており、今後の景気動向を見極める上での大きな懸念材料となっている。
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