2010年2月21日日曜日

PIGS


PIGS、ギリシャ財政危機で表面化した経済危機が危ぶまれる南欧の国々Portugal, Italy, Greece, Spainの総称である。これらの国々はEUの中核である独英仏に比べると経済構造が脆弱であり、財政規律に関してはルーズである。なぜギリシャ財政危機の様な問題が起こるかと言えば、一言で言えば、経済レベルの全く違う国々の間で無理やりユーロという共通通貨を導入した事にある。つまりユーロ加盟各国政府はユーロという共通通貨のおかげで、その時々の経済状況に対処する為の独自の金融政策はとる事が出来ず、財政政策しかとれない事にある。

本来 EUの本格的統一や通貨統合というものは、「人、物、金」の移動が促進され、経済が活性化される事から、こうした南欧や東欧、バルト三国といった国々の方にメリットがある筈であるが、それは同時にそういった地域へのバブルを誘発してしまう危険性もはらんでいる。特にこうした地域ではもともと経済活動が高度化していないだけに経済政策、財政規律の面でも問題が多い。つまり表現は不適切で悪いが、「経済のシロウトが身の丈に合わない借金をしてバブルに手を出す」様なものであり、アルプスの北と南ではとても経済面、ビジネス面では同じ市場とは思えないという事である。

そもそもユーロの総元締めである欧州中央銀行はフランクフルトにあり、基調としてはブンデスバンクの流れを汲むドイツ式の厳格な金融政策が取られてきている。それでは何故欧州EU全体で圧倒的な経済力を持つ優等生のドイツが自らを犠牲にしてユーロ導入に踏み切ったのかと言えば、それは「ドイツ統一」との深い関わりであろう。1989年のドイツ統一による東側復興の為に統一ドイツは大幅な財政赤字を抱え込む事となり、当然の結果としてドイツマルク金利の上昇がもたらされた。欧州ダントツの経済大国ドイツが高金利となれば、従来の固定相場制を維持するにはポンドもフランも金利を上げざるを得ず、それは必ずしも不況に苦しむ各国の経済状況からは望ましい事ではない。そうした混乱を避ける意味からも従来の通貨統合の動きが一気に加速されたのである。

もう一点はおそらく政治的なものであろう。既に複数のメディアが報じている通り、東西ドイツの統一の動きに対しては、フランスのミッテラン大統領とイギリスのサッチャー首相が露骨に警戒感を露わにして、ゴルバチョフ大統領に統一を阻止する様に働きかかけた事は事実の様である。そうしたフランスとイギリスに対して、東西ドイツの統一を歴史的、政治的使命とするコール首相の「ドイツ統一認知」を得る為の思い切った妥協策であろう。コール氏の決断により一気にドイツ統一の動きが加速し、また同時にユーロ導入の具体化への動きも加速されたのである。
そもそも通貨というものが自然発生的なもので、その国の歴史、伝統、文化、社会と無関係のものではない筈である。それをEUは経済活動のグローバル化の中で米国やアジアと競合する為、あるいは欧州域内での金融、投資、貿易、決済の利便性の面から、加盟国の国家主権はそのままにして、通貨を無理やり人工的に統合してしまおうという「革新」を行ったわけであり、そこには決してプラス面だけではなくマイナス面もある筈である。

イギリスは依然としてユーロには不加盟であり、保守党がユーロ参加に一貫して反対してきているのは、統一通貨に基づく共通の金融政策に縛られる事なく、主権国家として自国の経済状況に応じての政策が打てるという自由度を確保する為であり、これが長い目で見れば真の「保守」としての正しい選択であるのかも知れない。

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