2011年7月19日火曜日

FST (Financial Speculation Tax) 

現在、オバマ大統領と議会指導者の間でやりとりが行われている Debt Limit(連邦債務上限額)引上げ問題は8月2日の default期限まで 2週間となったにも拘らず、未だに解決の糸口が見えて来ない。オバマ大統領が提案している 2.4兆ドルの上限額引上げの条件としての3兆ドルの歳出削減と1兆ドルの増税の組合せの案に対し、増税を一切認めない共和党が主導する下院議会では cut, cap and balanceという歳出削減、上限額規定、財政均衡を義務付ける憲法改正、これらの三本柱での議決を行う構えを見せている。当然の事ながら合衆国憲法の改正には上下両院の supermajority(2/3の賛成)が必要であるところから、この議決自体は現実的なものではあり得ない。

オバマ大統領側での妥協策としては Medicare (高齢者医療補償)や Social Security(年金)という entitlement と言われる義務的歳出項目の聖域にも削減の手を付ける方向を検討中であると言われている。従来、民主党は高齢者や低所得者の弱者の立場に立って社会的 safety netの拡充を目指す政策をとってきたが、defaultの危機を迎え増税を一切認めないとする野党共和党側との妥協策としてやむにやまれぬものなのであろう。

そもそも今回の Debt Limit問題の根源である巨額の財政赤字は、バブル崩壊による不況対策として景気刺激策に膨大な財政資金を投入した事が引き金である事は言うまでもない。しかもそれだけの巨額の財政支出にも拘らず経済状況は好転せず更に悪化の兆しさえ見せている。そうなると、そもそもそのバブル崩壊をもたらした Wall Street の金融界に対する規制や管理というものはオバマ政権ではいかなるものとなっているのであろうか。

オバマ政権での金融規制改革法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)は一年前の 2010年7月21日に成立した。この法律は、金融安定監視協議会(FSOC)と金融消費者保護局(CFPB)の新たな設置と、ボルカー・ルールと言われる銀行が自己勘定取引行う事とヘッジファンドやプライベート。エクイティー・ファンドに出資する事を禁じる事が三本柱の内容となっている。

しかし、新たな組織や制度やルールを作ったところでそれらが果たしてどれだけバブル対策としての機能を発揮するかは今後の事であって、これで問題解決という事ではない。それ以上にオバマ政権として、どこまで本気で突っ込んでこの Wall Streetの暴走に歯止めをかけるかのその姿勢が大いに問われているのである。むしろオバマ大統領の実際の動きとしては、大統領再選も目指しての選挙資金確保の為の Wall Streetへの歩み寄りが目立つだけであり、どこまで弱者の味方であるかは大いに疑問視される所でもある。

財政危機は米国に限らず欧州各国とて同じだ。ドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領は既に金融投機の規制に関する税制である FST(Financial Speculation Tax)の導入に前向きだ。FSTは株式や先物、オプション、CDS等の金融取引に対し課税する事によって、過度な金融投機を抑制し、同時に新たなる税源を確保する事が狙いであるが、この概念としては既に FTT (Financial Transaction Tax) として古くは 1930年代にケインズが主張していたものでもある。

しからば政権発足当初に何故あれほど Wall Street の横暴を批判していたオバマ大統領はこの FSTの導入に言及さえしないのであろうか。それどころか、Wall Streetの金融業界が作り出したバブル投機とその崩壊を根源とする今回の財政危機問題では、結果的にそのしわ寄せの犠牲となるのは社会的弱者である低所得者や高齢者となるのであろう。我々の眼からは、肝心の元凶であるWall Streetはオバマ大統領によって聖域の様に守られているとしか見えない。