2011年5月1日日曜日

英国問題

英王室での結婚式の様子を見て、今回は30年前の熱狂はなく、国民の関心はすっかり冷めてしまっている様に思われる。近代国家においての王室や皇室は、「伝統と威信」というものが無ければ最早存在意義がないのではないだろうか。伝統も威信も守るべき立場の人間がそれを何よりも尊重し、引き継いで行くという強い意志と覚悟が無ければ時代とともに消え失せてしまうものである。ダイアナ妃に同情しようがしまいが、イギリス王室の次世代での一連の問題が王室の威信を著しく落としてしまったのは間違いない。30年前の結婚式の事を思いだせば、荘厳な教会における大司教の前での宣誓などはかえって心配にさえ思えて来る。

威信を保つ上でのもう一つの問題は経済的な裏打ちだ。昨今のイギリスの財政赤字は労働党政権下で一気に膨張し、一時はギリシャよりもイギリスの方が危ないと言われたぐらいの破綻寸前である。キャメロン政権になって消費税率の引上げや公務員給与の引上げ停止など思い切った超のつくほどの緊縮財政措置が取られて来ている。しかし、結論から言えばもう二度とイギリスが復活するなどという事はないだろう。それは一般的にではあるがイギリス人が競争を忘れて、額に汗して働かなくなったからだ。これは国際ビジネスの観点から見ても例えば、日本人、米国人、ドイツ人とイギリス人を比較すれば明らかだ。国際社会を知るものなら誰もこの三国の人々よりもイギリス人の方が良く働くという人はいないだろう。

この深刻な財政赤字問題の結果、バッキンガム宮殿は今や内部までもが観光地化して、宮殿敷地内に安っぽい王室グッズのお土産品を売る売店が設けられている。国からの予算を大幅にカットされて、王室は王室で独自の収入源が必要となったからであろう。イギリス人の友人に言わせれば、「政府は王室も民営化するのか」と言うものだが、もう無い袖は振れない状態であろう。

これは何も王室だけには限らない。ロンドン市内の例えば議事堂の対岸にある歴史的建造物である旧ロンドン市庁舎は20年ほど前に売却される事となり、日本の中小の不動産業者に買い取られた。今やここには伝統の景観を損なう巨大な観覧車の塔までが設置されていて一帯が遊園地化している。またロンドン西部地区に新たに建設された欧州一とも言われる巨大なショッピングモール(2008年にオープンの Westfield)はオーストラリア資本によるものであり、その中はほとんどと言っても良いほど中東系の若者であふれかえっている。

ビジネス面から見ると、例えば日本企業が全欧40数カ国以上の市場に何かハイテク製品を売ろうと考えた場合、欧州市場は独英仏伊のトップ4カ国でおそらく全体の需要の半分以上を占めてしまうであろう。その中でもダントツにトップなのがドイツである。人口の面でも、近代化の面でも、社会の高度化の面でも、購買力の面でも、イギリスはもう二度と追いつけない。何よりもドイツ人は少なくともまだ勤勉であり、向上心があり、計画性があり、物事の進め方が緻密でもある。イギリスの自動車産業はことごとく国外企業に敗れ去り、今や海外資本の傘下で細々と名目的に残っているだけである。家電や電子製品や IT関連商品はすべからく日台韓中に押さえられていて、既に20年以上にわたり全く出る幕すらない。

俗に言う、テニスの本家イギリスに変わる東欧、野球の本家アメリカに変わる中南米、相撲の本家日本に変わるモンゴルだ。生活をかけたハングリー精神がないと、厳しい競争社会には生き残れないのだ。日本もイギリスの事を批判できる立場にはない。バラマキ政策だけの民主党政権はイギリスの歩んだ道を歩もうとしているだけだ。そう言えばイギリスの児童手当は廃止になったかも知れない。