2009年12月6日日曜日

外務大臣とは


先日の普天間基地移設問題での閣僚級ワーキンググループの会合において岡田外務大臣、北澤防衛大臣の前でルース駐日大使が激怒したという記事を見て、その様子は日本側の配役を見れば目に浮かぶ様である。ルース大使がシリコンバレーの企業を顧客とする有能な弁護士であるという事を考えれば、これまたその様相も目に浮かぶ。まずは日本側であるが、ビジネスで営業をしている人には異論はあまりないと思うが、どう見ても岡田氏の様なタイプは日本政府の営業担当、つまり外務大臣には全く向いていない。ご本人も組閣の際鳩山氏から話が出た時に即答は避けたと言うから、この役職は党内の権力基盤をそがれるので不本意なのであろう。

そもそも企業の営業は売れないものでも売らねばならないし、時には顧客や社内、上司からの一方的な攻撃のサンドバッグ役にもならねばならない。それでも顔色を変える事もなく、自らの主張を理解させ、説得し、妥協して目標を達成しなければならないという実にオトナの仕事なのである。外務大臣や外交官も基本は同じであろう。別に営業マンでなくとも人生にはそういう局面はいくらでもあるが、果たしてエリート岡田外務大臣にはそういう経験が豊富にあるのだろうか。

その点、中国政府の外交部長は権力闘争の外にいる、いわば専門職が就任するので実に配役が適切である。現職の楊潔篪氏、前任者の李肇星氏などは外交官出身の官僚であるが、よくその顔付き表情、立ち居振る舞いを思い出し、裏に潜む腹黒さまでを見通してみれば、さすが国際舞台での外交で百戦錬磨の国での配役だと感心する。まあ一言で言えば、岡田氏の性格はその政治信条がどの様なものであっても真面目すぎて外交には本来無理だ。何よりも御本人は東大から官僚の道を選ぶ場合も外務省ではなく通産省を選んでいるではないか。

一方の北澤氏であるが、この方のタイプ、これも米国人弁護士である大使にとっては威嚇するには格好の餌食だ。何と言うかどう見ても小者であるし、国の防衛に体を張るサムライの様な威厳のある風貌でもなく、またゲーツ国防長官の様な冷静で知的な印象もない。こういう人物が同じ席にいるだけで米国人はイラつき、大声でどなりたくなるであろう。間違っても逆に怒鳴りかえされる事はないので、威嚇すると同時に自らの感情をガス抜きして引火爆発させるにはぴったりだ。

そもそも日米の弁護士数の比較では、米国約100万人、日本約 2万人で、50倍の違いがあるが、米国の場合は行政書士、司法書士、弁理士等も弁護士に含まれるので、日本のこれらの人数も含めた数の約15万人と人口比を加味して考えても、まだまだ3倍ほどで米国の弁護士数は実に多い。

それは訴訟社会でもあるからであるが、それゆえ弁護士は日本の様な「先生」というよりも顧客にとっては身近な存在であり、その資質としてはむき出しの闘争本能が求められる。この職業では品格と人格は求められず、ただただ顧客が満足する結果が全てだ。いかに大使という立派な地位でも弁護士というバックグラウンドがあれば怒鳴り散らしわめき散らしても何ら不思議でもなんでもない。あくまで日常的な職業活動上の一部であるからである。まあ本来米国人が怒鳴ってもわめいても、実際の怒り度合いは X 0.5 あたりと見ておいて良いのではないか。

本来、日米政府合意済みの普天間基地移設問題の落し所などはないのであるから、こういう事が続けば日本の新政権と閣僚の質の低さをさらけだすだけであり、ますます全てが結果的に米国ペースとなって、日本の米国依存が更に強まるだけだ。そもそも新政権が米国依存から脱却し、沖縄の負担を減らし、基地の国外移設を主張したいのなら、「自主防衛を強化し、集団的自衛権を認め、核武装論議タブー化しない」、この辺の見得をまずは切ってからだ。さもないと、ただただ大使に一方的に怒鳴られ、黙って尻尾をまいておしまいという誠に情けない姿となる。

2009年12月5日土曜日

韓亜龍


これは現在米国内で急速に店舗展開をしている韓国系食品スーパーマーケットの名前である。韓国語ではハナリュムと読むらしいが、英語名では H-Mart である。その H-Martが私の住む街にも新しく店舗を開き、大盛況だ。これを在ロスアンゼルス総領事がこちらに来られた時にお話したら、「ああワシントンDCにもあって人気ですよ」と言われた。早速調べて見ると、全米に既に 36店舗も開いているではないか。そのうちの半分は東部地区であるが、New York、New Jersey、と南部のGeorgiaの各州には5店舗づつ、Californiaでは3店舗開いたところだ。

実は私はすっかりこの韓国系スーパーのファンになってしまった。その理由は(1)店舗のインテリアがきれい(2)野菜・果物類は他の店よりも豊富で新鮮である(3)全て価格が安い(4)レジで待たされない、とまあ良い所ずくめである。勿論、近くには以前からの日系のスーパーもあるが、この4点全てで負けている。従って、かなり数の日本人がこの韓国系のスーパーでも買っている様だ。来店客の9割がたは韓国系であるが、白人、日本人、中国系、中東系のお客も良く見かける。おそらく韓国系以外のお客のお目当ては新鮮で種類の豊富な野菜と果物であろう。

通常の米国の大手スーパーチェインだと、野菜の保湿と新鮮度を保つ為には人手を省き水蒸気のシャワーの様なものが一定時間ごとに降りかかる様になっているが、この韓国系のスーパーでは常時野菜・果物を店員の手で補充したり入れ替えたりしている。それだけ回転が良いから新鮮なのかも知れない。店のレイアウトも入口に野菜・果物売り場がまずあって、そこを通らねば更に中に入れない様になっている。勿論、日本の食材もあり、韓国食材のキムチや惣菜類は数多くあって、我々が普段目にしないものも沢山ある。それに店員の動きがきびきびしていて、せっかちな日本人には何よりだ。レジは全て韓国人の店員が担当しており、他のスーパーではあまり期待できない迅速で丁寧な対応だ。

そもそも韓国から米国への移民はベトナム戦争後の1970年後半頃から急速に増加してきており、今や California州ではメキシコ系、中国系に次ぐ一大勢力になっていると言えるだろう。東部ではNew York州や New Jersey州にコリアンタウンが出来ており、西部でも Los Angelesのダウンタウンの西側と郊外に一つの街くらいの大きさのハングル文字が並ぶコリアンタウンがある。韓国からの移民のきっかけは、徴兵制から逃れる為の米国留学や米国政府が韓国軍のベトナム戦争参戦の見返りに韓国人に永住権を優先供与した事だ。

その韓国系の人達も本国韓国の経済興隆に伴い、生活レベルも相当アップして来ている。また彼らは米国社会の様々な分野で活躍しており、例えば私の住む所は全米ではトップクラスの治安の良さを誇る市で majorityは圧倒的な白人系であるにも拘わらず、市長は韓国系である。プロゴルフ界でも Anthony Kim、K.J. Choi、Y.E.Yangは有名であり、女子プロでは毎回トップ10の半分くらいは韓国系で占めている。今やロスアンゼルス郊外のゴルフ場に行っても日本人を見ない時はあるが、韓国人を見ない時はない程だろう。またゴルフ場で会う韓国系の人達のマナーも洗練されてきていて、どう見ても反日とは思えない。それと意外に若い年代でも本国で日本語を勉強していたりしているのがいて驚かされる。おそらく米国に来ている韓国系ビジネスマンは日本企業との取引関係も色々経験しているからなのであろう。

さて米国政府側では日本の新総理を「第二の盧武鉉」と呼ぶむきもある様だが、その意味は「折角政権を取ったのだからガス抜きをさせてやれ、そのうちまた政権交代が起こるまでしばしの寛容」という事でもある。我々の目からすれば盧武鉉氏の方が反米の面ではずっと筋が通っていたのであって、日本の新総理の場合は対米姿勢が一体何なのか我々さえも判らない程の出鱈目な対応ぶりである。

2009年12月4日金曜日

H1N1ワクチン事情


新型インフルエンザは米国では 2009 H1N1 influenza とか Swine Flu とかの名称が使われているが、ワクチンに関しては” H1N1” で統一されている様だ。本日現在のところ、南カリフォルニアでは依然として、第一優先順位のグループのみが接種の対象となっているが、それもまだ充分に行き渡っていない。おそらく日本と同様だと思うが、優先接種の対象は、①妊娠中②6ヶ月未満の乳幼児を世話する人③医療従事者④6ヶ月から24歳⑤25歳から64歳までで慢性疾患や免疫に問題がある人、となっていて、これの対象とならない人は接種を受けられず、しばらく全員に行き渡るまで待たねばならない。

しかし実際の状況としては、さすが米国だけあって、かなりのワクチンが医療現場に行き渡っている様である。但し、そう発表すると優先接種対象外の人間までが押しかける様な結果となるので、情報は押さえ気味だ。あくまで電話での問い合わせと websiteでの情報開示としているが、いずれも確実に接種が受けられるとの明確なものではない。ワクチン接種の対応は同じ州内でも各 County(郡)単位で異なっていて、これらの問合せの対応結果もかなり異なる。

例えばカリフォルニア州の Los Angeles郡(10百万人、1位)と Orange郡(3百万人、2位)を例にとれば、前者は公園等の公共の場において一般の優先接種者を対象にしてワクチン接種を行っているが、後者の場合はそこまではしておらず、あくまでも個別の医療機関が限定的に行っている様だ。また対応も Orange郡では優先接種の条件確認として慢性疾患の患者からは医療機関の証明書取り付けを義務付けているのに対し、Los Angeles郡の一般接種ではあくまでも口頭申告だけに留めている。

しかも Los Angeles市内での一般優先接種対象者ワクチン接種では本人確認や住所確認も一切行わない、全て申告内容を鉛筆で用紙に書き込むだけである。更に料金は無料。そこで例えば慢性疾患については喘息、心臓病、糖尿病などは明確に対象となっているものの、それでは糖尿病での血糖値の値はいくつからかの基準や測定値の証明の提示などは一切なく、あくまでも行列で待っている間に回って来る職員とのやりとりと配られる用紙に申告内容を記入するだけである。

従って、Los Angeles郡では優先接種対象者でなくとも既にワクチン接種を受けているものはかなりいるとみられる。また、優先接種の運用が厳しい Orange郡等でも個別の医療機関の判断で優先接種対象者以外にも「慢性疾患の範囲を拡大解釈」する事で一般への接種は事実上かなり広がっていると思われる。事実、最近アレルギー性鼻炎で医者に行った知合いの日本人(優先接種対象ではない)が、頼みもしないのに H1N1のワクチン接種をしてくれたそうである。料金は $17であったとの事だ。

そもそも新型インフルエンザに対する危機感は米国では日本と違ってあまりない。空港やショッピングモール等の人ごみでマスクをしている人は全く見かけない。それはおそらく日常生活で外出するのには公共交通機関を使わず自動車が中心であり、あまり人ごみの中に入るという事がないからであろう。こう考えると、あらためて東京という大都市の有事の危険性は極めて高い。新型インフルエンザ等の伝染性疫病、大地震や大火災の自然災害、国内外からのテロ、この三つに対して、いざ事が起こった時の首都機能の麻痺は計り知れない。あの阪神淡路大震災の時の村山首相の「何分慣れていない事なので」折角の自衛隊活用等の対応が遅れてしまい、犠牲者の数を増やしてしまったこの元首相の死罪にも該当するほどの無策の罪をもう一度思い出し、野党とメディアは新政権の危機対策を厳しく問い詰めて欲しいものである。

普天間基地移設問題


普天間基地移設問題の年内決着見送りの決定こそは闇将軍の判断であろう。社民党の福島党首の再選はなにも福島氏が「(政権離脱の)覚悟がある」と下手な大見得を切らずとも、無投票選出は既定路線の話である。照屋氏などにはとても党首選での票が集まるとは思えず、またそもそもいかに衰退した社民党とはいえ同氏は党首が務まる様な人物ではない。

そもそも社民党に政権離脱の覚悟など本当にあるのであろうか。社民党というのは自民党政権でこそ、少しは存在感が示せたが、民主党政権になってますますその存在意義が薄れてしまっている。更に何かと発言が注目された辻本氏が国土交通副大臣で入閣している事で、パフォーマンスさえも見られないすっかり静かな党になってしまった。党の幹部会の様子を伝えるテレビニュースを見ても、あれでは老人と女性だけの党ではないか。民主党の様に活きの良い若手の党員など目にしない。

この普天間基地移設問題への対処については、新政権が様々な政治課題がある中で、ここまで執着するのにはどうも当初から納得できるものがない。マニフェストではその殆どがポピュリズムとも言われる国内問題で外交問題はマニフェストの最後の最後に付け足し的に書かれているだけである。しかも普天間の問題に関しては「米軍基地のあり方に見直しの方向で臨む」と消極的に書かれているだけで、県外や国外への移設を約束しているものではない。現に、岡田外務大臣も北澤防衛大臣も日米合意内容での年内決着まで言及しているのである。それに対して鳩山総理は「(日米合意の)辺野古への移設が消えたのではない」と言いつつも早々とこの問題の決着の越年を表明しているが、その表情と語り口からは自らの確固たる信念から語っているのではないのが読み取れる。

そこには複雑な党内事業が絡んでいると思わざるを得ない。その根源が闇将軍の御意向だ。それでは何故闇将軍がかような決定をしたか。それはあの高野山での欧米キリスト教文明までをも批判した事に象徴される闇将軍の屈折した対米意識であると言わざるを得ない。今や闇将軍には国内政治と党内においては向かう所敵ナシの最高権力者状態になりつつある中で、唯一思うがままにならないのが外交、特に米国との関係だ。米国側が鳩山首相の発言のたびに当惑し、過剰反応は示さないものの一応困った様子を見せれば見せるほど、闇将軍の心の中は独裁者特有の心理となるのではないか。

この意味から、普天間基地移設問題の越年は政局からではないだろう。つい最近まである政党が「踏まれても踏まれても下駄の雪」と揶揄された事があるが、社民党が今や完全にその状態なのであって、闇将軍が気配りする様な相手ではない。社民党はむしろ逆に闇将軍の顔を伺う様な立場と成り下がっている。

幸いと言うか、現在の米国オバマ政権は、普天間基地移設問題などはその外交課題の優先順位としては全く下位にしか位置しないのは間違いない。それは米国のメディアではこれに関して何も報道されない事からも伺える。優先順位としてはまずはアフガン戦争、次は医療保険、イラン問題と新政権としての力量が試される重要課題が続く。普天間基地移設問題はオバマ政権にとっては、日本の新政権が多少ごねたとしても、放っておけば国内では全く問題にはならない。あくまでも日本側から言い出した話であり、正式な手続を踏んで両国政府間で取決めた話であるからだ。

それではこの問題の落とし所は「いかなるもので、いつ頃になるか」であるが、それは両国政府が既に取り決めた「キャンプシュワブ沖合いの海上への移設」であり、年明けの適当な時期となろう。ただそれだけの話である。

2009年12月2日水曜日

事業仕分けの紅衛兵


事業仕分けの結果に対する各界からの陳情は、本来の政権内部の行政刷新会議や国家戦略室ではなく、なんと民主党幹事長に集中させるという事らしい。この闇将軍幹事長氏が「私は党務に集中するので政権運営には口を出さない」と言われていたのはつい1-2ヶ月前の話ではなかったであろうか。いつの間にやら闇将軍が表舞台にお出ましである。それほど事業仕分けの結果に対する各界からの陳情は闇将軍殿には事業仕分けそのものよりもより重要なのだ。

これを見て聞いて、闇将軍の考えている事が何か、まだ目が覚めない様なら余程神経が鈍い人であろう。テレビのニュースで連日見飽きた事業仕分け作業での民主党の枝野、蓮鈁、寺田各議員らはまるで文化大革命の人民裁判に出てくる紅衛兵のごときである。もう既に死刑が最初から決まっている裁判に誰が声をからして、無罪を主張するのか。出来レースそのものの茶番劇である。しかし問題はその奥にあったのだ。当然事業仕分けなるもので予算をカットされた側は政権や民主党に対し様々なアピールなり陳情を行うであろう。既に目にするのは、あのノーベル賞受賞の学者揃っての会見やJOCの武田会長やら元宇宙飛行士の毛利氏らのアピールの姿である。

所詮、新政権にとっては「脱官僚依存」や「歳出の無駄を省く」などという掛け声は選挙での集票目的の空虚な空約束でしかないのであろう。そこまではマニュフェストなるものに騙された国民が馬鹿だという事である。さて問題はここからである。より許せないのは、その事業仕分けを権力維持の為の方策に使おうという闇将軍の汚いやり口である。事業仕分けで予算を削られたり、カットされた当事者側では当然の事ながら必死の思いで民主党幹事長の闇将軍の所に陳情に向かう事となる。

そこで闇将軍側では陳情のうちで何を受けて何を受けないかの判断基準は、今後の選挙での票にどれほど結びつくかどうかであろう。陳情が票に結びつくのであれば、闇将軍としては恩を売るのには絶好の機会であり、「脱官僚依存」とか「歳出の無駄を省く」とかといった事は最早判断上での観点ではない。政策よりも選挙である。その時点では紅衛兵達による人民裁判のパフォーマンスは終了していて、人々の記憶の中では既に相当部分が事業仕分けで削減、縮減されたと思い込んでしまっているであろう。従い。政策面での取捨選択の配慮はもう終わってしまった過去の事なのである。これによって、闇将軍の党内での集票力と発言力はますます極大化され、最早何人も抵抗すら出来ない、より強固な独裁体制が築き上げられるのである。

更にもう一点の面でTVのニュースの画面は正直である。陳情の受付は闇将軍幹事長であると発表した時の闇将軍の周辺にずらりと並んでおられた年配の方々のお顔は、事業仕分けの会場での若手の紅衛兵の方々のお顔とは全く違った、まるで昔の自民党の族議員の方々のお顔とそっくりなのである。この闇将軍の周辺におられる親衛隊の方々が実は民主党という組織の真の実力者であって、若手の紅衛兵の皆さん達は使い捨ての道具に過ぎない。事実、事業仕分け担当議員達の人選は敢えてそうなっている様に思えてならない。

特に代表格の枝野氏は総選挙前の民主党代表選挙の際に闇将軍から名指しで恫喝された四人組と並び、かねてから反小沢の急先鋒である。事業仕分けに対する各界からの反発はこの枝野氏に集中的に向かわせておいて、裏では各界からの陳情は闇将軍が受けるという構図である。陳情を受ける際の闇将軍のセリフは「いやいやウチの若いもんが無礼な事を致しましてスミマセン。私がよしなに取り計らいますので次回選挙のおりは一つお頼み申し上げます」で一件落着となる。これでは手下を使って脅しに脅しておいて、後で親分が助け人となって恩を売るという、まるでヤクザの世界の使い古された手口と同じではないか。

アフガニスタン戦争


昨日、オバマ大統領が漸くアフガニスタンへの3万人の米軍増派を発表した。現地派遣のマクリスタル司令官からの増派要請の人数は 4万人であったから満額回答ではない。これには増派に積極的な野党共和党のみならず、消極的な与党民主党内からも批判が出ている。要は今回の決定内容は中途半端な政治的妥協の産物なのである。結果的にはオバマ大統領がつい最近まで批判してきたブッシュ政権の2007年のイラクでの軍事作戦展開と同じ手法をアフガニスタンで取ろうという判断だ。

そもそも昨年の選挙でオバマ氏が大統領に当選したのは、(1) 経済危機からの共和党政権への失望感 (2) 共和党候補の魅力不足 (3) 共和党政権下での長引くイラク戦争、この三つが主因である事は小学生でも判る事だ。オバマ氏が政治家として優れた功績を残した事でもなく、また国のリーダーとして人間的にも卓越したものがあるという事でもないのである。ただただ2001年のテロ事件には圧倒的にブッシュ政権を支持した米国民の気まぐれな政権選択の結果だとみるべきであろう。

ただオバマ氏の場合、ユニークなのは父親がアフリカ系というルーツであり、また国政面でのキャリアが上院議員一期だけという点が、大統領になった人物としては米国政界では少数派である事だ。欧州の歴史で、ナポレオン、ヒットラー、スターリンという強烈なカリスマリーダーの唯一の共通点は何かと言えば、それは minorityグループからの出身である事だ。コルシカ生まれのナポレオン(フランス)、オーストリア生まれのヒットラー(ドイツ)、グルジア生まれのスターリン(ロシア)である。オバマ氏もその意味では半分は米国人社会では minorityのアフリカ系であるから、当然の事ながら当初はそのカリスマ性を期待するむきもあった。

しかし、政権発足後一年近くも経てばその本質は現れるものであり、オバマ氏はカリスマ性には乏しい事がだんだんと判ってきた。いやカリスマ性に乏しいだけではなく、ただ国民の気まぐれな感情にうまく乗っただけで、表面的な事を取り繕うのがうまいタダの普通の政治家なのかも知れない。

よく入社試験で、「この会社を志望する動機は何ですか」という、ごく当たり前の想定内の質問には最近の学生は自分の考えを纏めて主張するのが極めてうまいらしいが、突然「あなたの生まれた街の宣伝をして下さい」という想定外の質問をされるとたちまちその実力が露呈してしまい言葉につまるというのがあるそうだ。実はオバマ大統領も同じであって、国内の集会や演説は極めてうまくて、ブッシュ氏やクリントン氏を上回るものがある。おそらく選挙戦の中で同氏のスピーチに魅了された国民も多いだろう。しかし、想定外の環境や状況ではじめてリーダーとしての素質が垣間見られる時もある。それが先日の訪日時の天皇陛下の前での変なお辞儀である。この大統領には他国の伝統や文化に接する事には全く見識や免疫性がないという事が判ったのである。

それではその歴史、伝統、文化というものが米国人には未知に近いとまで思われるアフガニスタンという国での軍事展開が困難な状況の中で、派遣米軍の増派をし、その翌年には早くも一部を撤退させるという様な離れ業をこの大統領がやってみせる事が出来るのであろうか。答えは明確にNoである。ベトナム戦争のジョンソン政権の時と同様に中途半端な軍事的対応をする事で悲劇が増幅される結果につながりかねない。

それではどうすればこの対テロ戦争と言われるアフガン戦争で一定の成果を上げる事が出来るのであろうか。それは一重に戦争遂行責任者である米国大統領の深い見識に基づく判断力と、その政策実行面での政治的エネルギーの結集力でしかあり得ない。これはベトナム戦争時にケネディ大統領が見せた政治家としての力量、つまり徴兵制での軍事行動拡大という国民にとっては最悪の政策を敢えて遂行する事が出来た同大統領のカリスマ性によるものである。ケネディ大統領暗殺後のジョンソン政権では、ケネディ氏とは対照的なジョンソン氏の乏しいカリスマ性から、当然の事ながら国民の側ではベトナム戦争の続行さえ許さなかったのである。

わが日本の新政権のリーダーは決して、いかなる面からもminority出身者ではない。全て恵まれすぎているのであって、そこにはminorityから這い上がり苦労した事で人々を感動させ、共感させるカリスマ性なるものは皆無である。そのマニュフェスト原理主義とまでも言われた当初の政策実行への姿勢も、政権発足3ヶ月あまりで全て怪しいものである事が露呈してきた。マニュフェスト至上主義ならそれはそれで出来るものならおやりなさい。それならばそれで筋は通るが、最も忌避すべきは何事も中途半端にしてしまう事である。このつけは軽薄にも政権交代と言う言葉に興奮した国民自らに降りかかってくるのである。